東京モーターショー
 10月25日、2年に1度開かれる「東京モーターショー」の展示内容が報道陣に公開されました。
 今年は走行中に排ガスを出さない電気自動車(EV)に注目が集まっています。
 ホンダは、3種類の電気自動車のコンセプトカーを発表し、小型の電気自動車を2020年に初めて国内で発売することを明らかにしました。
 また、ハイブリッド車を主力としてきたトヨタも、電気自動車のコンセプトカーを発表しました。スズキやダイハツ、三菱自動車なども、電気自動車のコンセプトカーを発表し、世界的に加速するEVシフトが日本のメーカーの間でも鮮明となっています。
 さらに、今回のモーターショーでは、EVとともに自動運転やAI=人工知能の技術も多く公開されています。
 トヨタが公開したのは、ドライバーの声や表情を読み取る人工知能の技術です。人工知能が顔の表情からドライバーが疲れていると認識すると、自動運転モードに切り替わります。また、ドライバーの性格や過去の運転履歴などからドライブ中にお勧めの行き先を答える人工知能の開発も進められているということです。
 三菱自動車は、ドライバーが運転席の横にあるタブレットに話しかけると、車内の温度を調節したり、ワイパーを操作したりする技術を発表しました。
 EVシフトが加速する中、日本の自動車産業を支える部品メーカーも電気自動車向けの部品の開発を急いでいます。
 エンジンの振動を抑える防振ゴムが主力の住友理工は、電気自動車のモーターに使われる防振ゴムのモデル品を初めて出展しました。
 モーターと電池で走る電気自動車は、従来のエンジンや変速機など多くの部品が不要となります。EVシフトが加速すれば、売り上げが大きく減るおそれがあるとして、電気自動車向けの部品の開発に力を入れています。
大転換期に立つ自動車産業
 今、自動車業界では、EVシフト=世界的なEV普及への暴風雨のような風が吹き荒れています。
 今年、イギリスとフランスは、「2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する」との方針を打ち出しました。アメリカでも、カリフォルニア州など10州が18年からZEV(Zero Emission Vehicle)現制を実施すると発表。これは、自動車メーカーに対し、排ガスゼロ車(排気ガスを一切出さない車)の販売を、販売台数の一定比率以上にすることを義務づけるというものです。
 また、大気汚染が深刻な中国でも、一定量のEVの生産・販売を義務づける規制の導入を検討しています。インドは、2030年までに新車の販売をすべてEVにする、との計画を発表しました。
 世界中がEV導入へ向けて大きく舵を切ったようです。

EVが次世代エコカーの本命
 1990年代から大気汚染や地球温暖化が大きな問題となり、アメリカ・カリフォルニア州をはじめ、先進国で自動車の排ガスや二酸化炭素(CO2)の排出を規制する動きが強まりました。この規制に対応するために登場したのが、燃費効率がよく、排ガスの少ない、それでいて運転しやすい「エコカー」です。
 エコカーには大きく分けて4車類。軽油を燃料とするディーゼルエンジンを使用したデーゼル車、エンジンとモーターを併用したハイブリッド車、電池でモーターを回す電気自動車(EV)、水素を燃料とする燃料電池車があります。
 当初、EVは「電池が高価である」「1回の充電で走れる距離が短い」「充電設備が普及していない」といった理由でなかなか普及しませんでした。
 ヨーロッパではディーゼル車が、アメリカや日本ではハイブリッド車が普及してきました。
 日本では、ハイブリッドの技術にすぐ優れたトヨタやホンダなどのメーカーが全世界をリードしました。
 そして、当面はハイブリッド車を中心としながら、次世代エコカーの本命を燃料電池車として、開発が進められていました。
 ヨーロッパのデーゼル陣営に2015年、大きな事件が発生しました。ドイツのフォルクスワーゲン社の排ガス不正の発覚です。ディーゼルエンジン車の排ガス規制を逃れるため、不正なソフトウェアを使って試験をごまかしていたというものです。これによってディーゼル車の信頼は失墜し、フランスのパリやスペインのマドリードでは、2025年からディーゼル車の乗り入れを禁止することになりました。ヨーロッパの主要都市もこれに続く方向です。こうしてディーゼル車は、エコカーから脱落しました。
 一方でEVは、高性能なリチウム電池の開発により、2009年に三菱自動車が世界初の量産EV・アイミーブを発売しました。日産自動車のリーフもこれに続きました。また、アメリカではテスラが高級EVを発売、充電設備の導入や運用も充実し、次第に市民権を得てきました。

自動運転、人工知能との融合も進む
 エンジンがないEVは非常に静かで、走りも振動が少なく、乗り心地は快適です。加速性では、エンジン車よりEVの方が数段上と言われています。
 電池の性能が進化したこともあり、1回の充電で走れる距離も実用レベルに達してきました。電池を充電する電気代もガソリン代と比べると、同じ距離を走るのに4分の1程度ですみます。
 その上に、東京モーターショーでも明らかになったように、自動運転や人工知能(AI)を利用した新技術も、エンジン車よりEVのほうが適用しやすく、安全性も高くなる可能性があります。
 現在、電気自動車を購入するときの価格は約200〜300万円(クリーンエネルギー自動車等導入促進対策補助金を利用した場合)ですが、量産が進めば、2020年代にはエンジン車よりも安くなるでしょう。

日本経済の構造も大幅に変化
 EVが自動車の主流になると、自動車産業は、大きな変化に見舞われます。
 従来の自動車技術の約7割はエンジンにかかわるものといわれます。そのエンジンがモーターに取って代わると、自動車製造は大幅に簡素化され、自動車の製造コストが劇的にも安くなります。約3万個といわれるエンジン車の部品のうち、4割が必要なくなるとの試算もあります。
 多くの部品メーカーが生産にかかわり、非常に裾野が広い自動車産業において、エンジンの研究・開発が縮小されれば、自動車メーカー本体もコンパクトになり、仕事量が激減する部品メーカーも出てきます。自動車産業全体がスリム化すれば、多くの労働者が仕事を失い、深刻な雇用問題が発生する恐れがあります。
 日本経済の中核である自動車産業の動向は、日本経済に甚大な影響を与えることは明らかです。
 日本の大手自動車メーカーは、その系列に優秀な部品メーカーを抱えていることが強みの一つです。自動車の製造には、エンジン以外の車体の製造にも高度な技術が必要だからです。
 しかし、EVはそうではありません。今まで、エンジンという大変高度な技術の集積が必要で、一部のメーカーに製造が限られてきた自動車は、電機メーカーやベンチャー企業でも生産ができるようになります。ウィンドウズパソコンが、パソコンメーカーの専有物から、世界中の部品メーカー部品を集めて組み立てる方式になってしまったようなことが、自動車業界でも起こりえます。
 日立製作所などの総合家電メーカーが、EVを製造するといった時代が来るかもしれません。

EVシフトで私たちの生活も変わる
 世界の石油消費量の約5割は、自動車の燃料、特にガソリンや軽油が占めています。今後、EVシフトが進むと石油消費量は大幅に減少し、産油国にも大きな影響が出ます。
 また、EVの充電に不可欠な電気をどうやって発電するかも、大きな課題です。ここで、再生可能エネルギーの活用を進める必要があります。
 家庭用ソーラーパネルなど太陽光発電による電気をEVの充電に使うことなども考えられます。
 このように、EVが普及すると、政治、経済、社会に大きな変化を引き起こします。自動車産業だけでなく、私たちの生活が大きく変わる大転換期に入ったといえるでしょう。
(このブログ記事は、パンプキン2017年11月号、NEWS KEY WORD “電気自動車” 舘内瑞さんの記事をもとに作成しました)