水素の意義と重要性
 水素は酸素と化合して水になるとき、電気を発生します。この過程で、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)を一切排出しないため、クリーンな新エネルギーの大本命として期待されています。
 政府は先月(平成29年12月26日)、水素を主要な燃料として利用する「水素社会」を、世界に先駆けて実現するための「水素基本戦略」を公表しました。水素の活用を本格的に広め、世界の地球温暖化対策の取り組みを、日本がリードすべきです。
 「水素基本戦略」は、2050年を視野に将来目指すべきビジョンであると同時に、実現に向けた2030年までの行動計画となっています。基本戦略では、目標としてガソリンやLNGなどの従来エネルギーと同等程度の水素コストの実現を掲げ、これを実現するため、水素の生産から利用まで、各省にまたがる政策群を共通目標の下に統合しました。
 基本戦略に基づき、カーボンフリーな水素を実現することで、水素を新しいエネルギーの選択肢として提示するとともに、日本の強みを活かし、日本が世界のカーボンフリー化を牽引することを目指します。
 他の再生可能エネルギーと比べ、天候の影響を受けないことも水素の利点です。例えば、太陽光発電は、曇っていたり、雨が降ったりすると、発電量が低下してしまいます。これに対し、水素は、マイナス253度以下に冷やすと液体となり、貯蔵や輸送が可能になります。電力需要に応じて水素を取り出し、必要な量の電力を安定的に供給することができます。
水素基本戦略のシナリオ
 水素基本戦略では、2030年ごろまでに水素発電を商用化し、原子力発電所1基分に相当する100万キロワット規模の発電をめざすとしています。
 企業や家庭などでの水素発電の利用を増やすには、電気料金を低く抑えることが欠かせません。水素基本戦略では、水素発電の電気料金を、液化天然ガス(LNG)火力発電と同等程度まで安くすることを目標に掲げました。そのためにも、水素を年間500万〜1000万トン確保し、利用する必要があるとしています。
 課題は、大量の水素をどのようにして確保するかという点です。水素が単独で存在することはほとんどありません。炭化水素や水などの化合物となっているため、それらから水素を取り出す必要があります。現在、残念ながら水素を製造する過程で、CO2が発生してしまいます。日本で使われている水素の多くは、天然ガスや石油などの化石燃料から取り出しています。CO2を出さずに水素を製造する技術開発が急がれます。
 川崎重工などは石炭から水素を取り出す際に発生したCO2、大気に放出される前に回収し、地中に埋める「二酸化炭素回収・貯留」(CCS)技術の開発が進められています。政府はこうした技術の実用化を後押しし、温暖化対策の切り札として、水素を世界にアピールする必要があります。

燃料電池(水素)バス
 また、発電とともに重要な要素としてモビリティでの利用を挙げています。燃料電池車(FCV)を2020年までに4万台程度、2025年までに20万程度、2030年までに80万程度の普及を目指します。
 水素ステーションは2020年度までに160か所、2025年度までに320か所を整備するとともに、2020年代後半までに補助金なしによるステーション事業の自立化を目指します。このため、規制改革、技術開発、官民協同による水素ステーションの戦略的整備を三位一体で推進するとしています。
参考:水素基本戦略http://www.meti.go.jp/press/2017/12/20171226002/20171226002-1.pdf