サンドボックス制度の仕組み(日経新聞の記事より) 新しいビジネスを生み出すために大胆な規制緩和を行う「規制のサンドボックス」制度の創設を柱とした「生産性向上特別措置法案」が、現在開会中の通常国会に提出される見込みとなりました。政府は2月1日、未来投資会議を開き、成長戦略の要である「生産性革命」の実行計画を了承。この計画の目玉が、革新的な商品やサービスの開発に挑む企業や大学が、法規制にとらわれずに、技術開発に取り組める環境を整備する「サンドボックス制度」の創設です。
 サンドボックスとは、英語で「砂場」の意味です。子供が思うままに砂遊びをするように、規制がかからない環境を実験的に作り、新事業の有効性を確認します。英国とシンガポールで2016年に始まり、金融と情報技術(IT)を融合した新サービス「フィンテック」分野で計約50事業が認定されています。
 法案は、今の法規制で認められない事業を事業者主導で行えるようにするのが目的。国家戦略特区とは異なり、自治体が手続きに絡まないため、事業者の手間が省けます。さらに、特区のように地域を限定する必要はないため、事業をいきなり全国展開することもできます。サンドボックスは、事業者が実現を目指す事業の計画を国に申請し、事業に関連する閣僚が認定する仕組みを取ります。認定時には、首相が任命した有識者による「革新的事業活動評価委員会」の意見を踏まえ、制度の公平性を図ります。法案を3年間の時限立法とし、短期集中で取り組むことで、日本発の有望事業を掘り起こしたい考えです。
サンドボックス制度の考え方
 政府は法案が成立すれば、さまざまな新事業が生まれることを期待しています。例えば、道路の電柱にカメラを設置し、登下校する子供の様子を記録する「見守りサービス」が見込まれています。親は職場にいながら、自分の子をスマートフォンなどでチェックできます。こうしたサービス展開を希望する業者がすでに存在します。しかし、電波法では、カメラの画像を送る電波はアマチュア無線の電波と混信するおそれがあるとして、屋外で使えないことになっています。
 また、個人事業主が資産状況にかかわらず、クレジット会社の融資を受けられるようにすることも検討されています。割賦販売法では、年収や預貯金、債務残高などに基づいて融資の上限を決めることになっています。サンドボックスなら、資産を持たない事業主でも、新事業の元手となる融資を受けやすくなります。
 さらに、自動運転の実験車を公道で走らせることなども検討されています。現状では、道路封鎖をするための道路使用許可など、事前の手続きだけで多くの時間や手間がかかります。一方、サンドボックス制度では、開発者が安全性を十分に確保し、実験の意義について住民らの理解が得られていれば、現行制度で必要な手続きを不要にします。また、実験で得られた成果を法規制の改善に生かすことで、より多くの産業で新たな技術開発が進む波及効果も狙うことになります。
 2020年の東京五輪・パラリンピックで利用客の増加が見込まれる羽田空港周辺での自動走行実験で、サンドボックス制度の活用が想定されています。サンドボックスでは、新事業の妨げとなる法規制を改正しなくても済むため、認定さえ受ければ、すぐに事業を始められます。政府はサンドボックスで新事業が有望だと判断した場合、関連する規制を緩和する法改正を行う方向です。

都道府県レベルでもサンドボックス制度活用の動き
 都道府県レベルでもこのサンドボックス制度を積極的に活用する動きが始まっています。
 神奈川県は昨年7月、期限を定めて規制緩和する国のサンドボックス制度を活用する方針を発表しました。
 神奈川県がサンドボックス事業として計画しているのは「最先端遺伝子検査技術の社会システム化」事業です。がん治療における個別化医療の保険適用化と、健康保険組合が実施する保健事業での活用などを具体化します。遺伝子検査に基づく個別化医療は、がんの原因遺伝子を特定して発症予防のために部位を切除する措置や、個々のがん細胞に対する最適な抗がん剤の選択が可能になるといった効果が期待できます。国内では一般的に認められていません。約40万〜50万円とされる治療を、神奈川県では健康保険の適用として普及させ、「ゲノム医療」を加速させる狙いがあります。
 神奈川県は2014年に指定された国家戦略特区制度による規制緩和を活用し、これまで「地域限定保育士」の導入や、家事を支援する外国人労働者の受け入れなどを行ってきました。