東京圏と地方圏の人口推移
 東京圏一極集中の是正へ若者の地方移住をいかに促進するか――。その具体策を検討するため、政府の有識者による「わくわく地方生活実現会議」は、現在、活発な議論を展開しています。地方移住への関心が高まっている現状とともに、会議での主な論点を公明新聞(2018/3/13付け)の記事から紹介します。

■東京圏在住者は、田舎暮らしへ関心高く約4割が実現を検討
 東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)以外の地域である地方圏において、15〜29歳のいわゆる若者人口が大幅な減少を続けています。2000年に1831万人だった地方圏の人口は、2015年に1299万人と約3割も減少しました。
 これに対し東京圏は、転入者が転出者を上回る転入超過が22年間も続いています。17年の超過数は全体で約12万人に上ります。そのほとんどは15〜29歳の若者です。背景には、大学進学や就職などを機に東京圏内に移り住むケースが多いことが挙げられます。
 ところが、地方を志向する東京圏在住の若者は少なくありません。内閣官房の調査によると、東京に住む人の約4割が、今後、地方への移住を予定・検討したいと考えており、特に10、20代でその割合が大きいという統計があります。
ふるさと回帰支援センター
 こうした傾向は、田舎暮らしやUIJターンなど地方への移住・定住をサポートする、認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」の活用状況からも見て取れます。
 面談・セミナーへの参加と電話などの問い合わせを合計した件数は、2008年の2475件から17年の3万3165件と13倍超に激増しました。これを年代別に分析すると、利用者全体に占める30代以下の割合は、08年の16%から16年の45.9%へと急増し、半数に迫る勢いです。
 このように、若い世代の間で地方移住へのニーズは着実に高まっています。こうした動きを政策面で後押しすれば、東京圏一極集中を是正し、人口減少・少子高齢化が著しい地方の活性化につなげることができるはずです。
※写真は、認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」の「いばらき暮らしサポートセンター」相談員渡辺さん

■自治体の魅力発信へ、UIJターン、女性の活躍、広報強化など論点に
 政府の「わくわく地方生活実現会議」は、東京圏への転入超過の流れを食い止めるため、自治体による移住促進策の強化などをめざしています。会議名は、胸が躍る「わくわく」と「知恵が湧く」を掛けたものです。5月にも具体策を取りまとめ、経済財政運営の基本指針「骨太の方針」に反映させる考えです。
 2月中旬に開かれた初会合では、三つの大きな論点が示されました。
 一つ目は、若者を中心としたUIJターンの拡大策の強化です。例えば、県内の高校を卒業して県外の大学などへ進学した学生に対し、県内の就職案内を発信するなど、地方自治体では独自の取り組みを行っているところもあります。こうした施策の全国展開などを検討し、若者が「地方にこそ、チャンスがある」と感じられる方策について議論を深めていきます。
 二つ目は、地方の人手不足に対応した女性や高齢者の活躍の推進です。総務省の調査によると、2000年から15年にかけての東京圏での就業者数は、男性が25万人の微減、女性が91万人の増加だったのに対し、地方圏では男性310万人、女性72万人といずれも大幅な減少となり、人手不足が深刻化しています。こうした中で、潜在的な労働力と期待される女性や高齢者の活躍をどう実現するかが焦点となります。
 三つ目は、地方の魅力の周知・広報です。通勤時間の短さや家賃の安さなど、地方ならではの強みを「見える化」する方策を検討します。
 また、初会合では、会議の委員から移住のあり方について、さまざまな意見が出されました。例えば、「3年程度、地域で働いてくれる若者たちを5〜10人ほど迎え入れて優遇策を講じる『コミュニティー移住』といった提案はどうか」「観光以上定住未満で人が流動する『関係人口』という選択肢が必要だ」「地方にある実家と東京の自宅を行ったり来たりするような『2地域居住』を増やすのも重要では」などです。
 さらに、移住促進のカギを握る「職」については、「移住希望者が求める職種と、地方で求められる労働力にミスマッチがあるのでは」との指摘もありました。仕事内容や収入面で移住希望者のニーズを満たす雇用を創出できるかが問われています。
 2月下旬に開催された第2回会合では、地方生活の魅力やUIJターンの拡大をテーマに、実際の経験者らと意見を交換。会議の委員で地方に暮らす歌人の俵万智さんは、豊かな自然に子どもを触れさせる体験の大切さなどを語りました。
 若者を地方に呼び込む流れをつくろうと、政府は既に、UIJターン者向けに奨学金の返還免除などを行う施策の全国展開を進めています。今後は「キラリと光る地方大学づくり」を目的とする交付金制度も創設し、地方大学の振興によって地元での若者の修学・就業につなげていく方針です。