BONDプロジェクト
 若者の自殺を防ごうと、厚生労働省は自殺対策強化月間の3月から、LINEなどのSNSを活用した相談事業を始めました。厚労省から委託を受けた民間13団体が公式アカウントを開設し、専門家らが無料で相談に乗っています。
参考: SNS相談を行う団体(13団体) http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jisatsu/index.html

人間関係や仕事 悩みに寄り添う
 「悩み苦しんでいる人に寄り添いケアしたい」。こう力を込めるのは、暴力被害や家庭不和などの問題に直面する若い女性を支援するNPO法人「BONDプロジェクト」の橘ジュン代表です。
 BONDプロジェクトでは、10、20代の女性に向けてLINEアカウントを開設し、毎日午後5時〜深夜2時まで、無料で相談を受け付けています。常時8人の相談員が対応し、毎日100件を超す相談が寄せられています。
 相談内容は「死にたい」といった直接的なものから、家族や友人との人間関係、仕事の悩みなど多岐にわたる。相談員の中には、過去にBONDプロジェクトの支援を受けて立ち直った女性もいます。橘代表は「つらい思いを経験しているからこそ、悩みに気付けたり、苦しさを共感できる」と話します。
 BONDプロジェクトは相談を待つだけでなく、SNS上で自殺につながるような書き込みを探し出し、「話を聞かせて」とメッセージを送って相談にも結び付けています。
 自殺願望のある人の早期発見・対応に有効なSNSだが、相手の表情や口調が分からないため、状況を正しく把握することは難しい現実があります。そこでBONDプロジェクトでは2月末、LINEでの相談の応じ方について研修合宿を開きました。メンバーが相談者役と対応役に分かれてメッセージを送り合い、言葉の使い方で伝わり方がどう変わるか意見を交わしました。
 こうした相談員の研修は、委託を受けた団体の多くが力を入れています。例えば、全国SNSカウンセリング協議会は、全国心理業連合会や関西カウンセリングセンターの協力を得て、4回の研修会を開催し、延べ130人がカウンセリング技術を学びました。
 厚労省は現在、SNSによる相談事業を4月以降も継続できるよう、準備を進めています。厚労省自殺対策室の鶴見伸司室長補佐は「今後は、相談支援のノウハウ(手法)をまとめたガイドラインの作成や相談員の研修強化を行い、相談事業のレベルアップに取り組みたい」と話しています。

文科省もSNSでのいじめ・自殺相談実施へ準備
 文部科学省でも、いじめ・自殺相談にSNSを活用する方針で、2018年度からの本格実施をめざしています。2017年度補正予算、18年度予算案で計2億5000万円を盛り込み、全国25自治体に相談体制の整備費用を補助します。
 文科省によると、SNSの相談窓口では自治体が委託した臨床心理士や教員OBに加え、SNSに詳しい大学生ら若い世代が相談員となります。対象は原則として児童・生徒。受付時間は平日午後5時〜10時など、子どもが利用しやすい時間を想定しています。
 SNS相談については、先行して試験導入した自治体で効果を上げています。長野県が2017年9月、公明党長野県本部青年局の推進により、中高生を対象にLINEを使って相談事業を行いました。2週間の試行で、2016年度の電話相談数の2倍以上となる547件もの相談が寄せられました。

スマホなどで見知らぬ人との交流増加
 国内の自殺者数は2009年以降減り続け、2017年は2万1321人となりましたが、自殺が若年層(15〜34歳)の死因のトップというのは、主要先進国で日本だけの現象です。
 これまで、自殺予防の相談窓口は電話を中心に行われてきましたが、最近の若年層の交流手段は音声通話よりも、スマートフォン(スマホ)を使ってのSNSの活用が圧倒的に多くなっています。
 昨年(2017年)10月には神奈川県座間市で、SNSに自殺願望を投稿した若者が誘い出されて殺害される事件が発生。若年層がSNSを通じて見知らぬ人と交流する実態が鮮明になりました。
 そのため政府は、電話やメールに加え、若者が使い慣れているSNSで悩みを相談できる仕組みづくりなどを検討してきました。