横浜市さくら茶屋にししば
 国土交通省は2018年度から、低廉な家賃で住める公的賃貸住宅の空き家を、高齢者や子育て世帯の支援施設として活用するための補助制度を開始しました。
 少子高齢化が進む中、「団地」に活気を取り戻す方策として期待されています。
 住宅団地は、高度経済成長期に都市部で急増した人口の受け入れ先として周辺各地で建設された。国交省によると、5ヘクタール以上の大規模な住宅団地は全国に約3千カ所あり、その半数が三大都市圏に立地する。当時は子育て世代が一斉に入居したが、現在は高齢化が進み、空き家や空き店舗が増えている。バス路線の維持が困難になるなど利便性が低下し、若年世帯が入居しなくなっている団地が少なくありません。こうした「負の連鎖」を断つため、国交省は空き家や空き店舗の活用に着目。自治体や住宅公社、民間団体が空き施設を使って高齢者や子育て世帯の生活支援施設を新設する場合、費用の一部を支援することを決めました。団地内の通路や緑道をバリアフリー化する際も支援対象となります。
 国交省はこれまでも空き家を施設などに改修する際の支援は実施してきましたが、住宅団地を単位にした事業は初めてです。街全体を支援することで、より効果的に若年世帯の誘致を進めるのが狙いです。
 高齢者が暮らしやすい環境の整備と、子育て世帯の入居を促して団地の活性化につなげるという点で、タイムリーな政策です。
 このうち高齢者支援を例に挙げると、訪問介護施設や住民の交流場所の設置が想定されています。さらに、入居者が一定の時間を超えても動きが見られない時に見守り拠点に警報を発する人感センサーの設置費用や、耐震改修費なども補助の対象になっています。
 子育て支援に関しては、3歳未満児を対象にした定員が6人以上19人以下の小規模保育施設のほか、幼稚園や保育所に通っていない子どもらのための一時預かりサービス拠点などの設置が容易になります。
 いずれも公営住宅の空き家程度のスペースがあれば運営できる事業です。国や自治体は、制度の積極的な活用を事業者に呼び掛けるべきです。
 公営住宅の中には既に、自治会と社会福祉協議会が連携し、空き家を「福祉サロン」に改修して入居者の交流の場にしたり、NPOなどの協力を得て高齢者向けのショートステイ(宿泊型)サービスの拠点を開設した所もあります。
 新たな制度で、こうした取り組みも後押ししすべきです。

■各地で団地活性化に取り組む…カフェや遊び場/話し相手の学生常駐
 自治体レベルでは、空き家を活用した地域活性化の取り組みが始まっています。
 横浜市は「地域まちづくり推進条例」に基づき、整備費用を助成しています。この制度を利用し、横浜市金沢区の西柴団地では、団地内の空き店舗を活用した交流施設「さくら茶屋にししば」ができました。
 西柴団地は昭和30年代から開発が始まり、近年、少子高齢化が進んでいます。「地域を元気づけたい」と住民の有志が交流施設を立ち上げました。気軽に立ち寄れるカフェとしてだけでなく、アートフラワーや歌など趣味の教室、買い物支援や子どもたちの遊び場としても活用されています。
 京都府八幡市のUR男山団地では2013年、関西大学とUR都市機構、市がまちづくりに向けた連携協定を結びました。住民と学生が協働運営。大学院生が常駐してお年寄りらの話し相手になるコミュニティー拠点や集会所を改修した子育て支援施設を設置しています。
 1972年に入居が始まったこの団地と周辺住宅には、市の人口の約3割にあたる約2万人が入居。市の担当者は「一斉に高齢化が進み危機意識を持っていた」と話しています。運営開始後、団地の平均年齢は下がっていると報告されています。
(朝日新聞、NPOさくら茶屋にししばの記事を参照しました)