訴訟の現場となった建設用地
 6月15日、筑波山麓の太陽光発電所の建設を巡り、県が設置許可を出さなかったことに対して、水戸地裁は原告の建設業者の訴えを認める判決を下し、茨城県が敗訴しました。
 筑波山の景観保護エリア「水郷筑波国定公園」内への太陽光発電所の建設計画を巡り、つくば市の建設業者が県に対し、太陽光発電設備の設置許可申請の不許可を取り消し、許可するよう求めたものです。この裁判は、太陽光発電所設置予定の民有地が筑波山山頂などから展望する場合、眺望の妨げになるか否かが最大の争点となっていました。水戸地裁の岡田伸太裁判長は「眺望に著しい支障を及ぼすとは認められない」として業者側の請求通り、県の処分を取り消し、設置を許可するよう義務付けました。
 岡田裁判長は、周辺には複数の建物が存在しており、民有地が眺望に占める割合はわずかだとして、「影響は部分的なものにとどまる」と判断。また、業者が樹木の一部温存や植樹をしたり、太陽光パネルの高さを一定程度に抑えたりするなど、景観への影響を軽減する措置を予定していることも考慮した判決なりました。その上で、岡田裁判長は県が業者の申請を許可しないことについて「裁量権の範囲を超え、濫用となると認められる」と結論付けました。
筑波山麓の太陽光発電施設を視察する井手県議と田村県議
 判決によると、業者は2015年5月、自己が所有する土地に太陽光発電所を設置するため、自然公園法に基づき、茨城県に開発許可を申請しました。茨城県は2016年2月、展望地から筑波山などを見渡す場合、太陽光発電設備が「著しい妨げになる」として申請を不許可としました。
 訴訟の対象となった現場は、筑波山中腹の県道近くに位置しています。自然公園法では、特別地域への太陽光発電施設の設置や立木の伐採には、事前に知事の許可が必要とされており、「主要な展望地から展望する場合の著しい妨げにならないものであること」を条件としています。茨城県は、2015年の業者からの許可申請を受け、現地調査を実施。現場は観光バスも止まる駐車場のすぐ下に位置するため「筑波梅林や関東平野の景色を眺めるときにまず視界に入る。観光客が景色を楽しむ場所」と判断しました。
 自然公園法では、特別地域で1ヘクタール以上の開発を行う際、許可申請以前に景観や稀少動植物への影響を調べる環境影響調査が必要となります。しかし、この現場は9982平方メートルで、この規制範囲に収まっており、県は景観の是非で裁判を争うことしかでいませんでした。
 2015年頃、筑波山麓では、大規模太陽光発電施設設置を巡る事案が、今回の現場周辺で3件ありました。地元住民の理解を得ずに樹木を伐採するなどして業者と住民との間であつれきが生じた事案もありました。県議会公明党は地元住民の要望を受け、田山けい子県議、井手よしひろ県議らが、貴重な自然空間を守るため、県に建設許可を認めないよう活動しました。1件は国定公園区域外であったため、計画通り設置されたましたが、残り2件は業者が自主的に計画を取り下げ、県の不許可により設置が見送られました。

井手県議ら公明党の資源エネルギー庁への要望
 当時、地元住民からは「観光地としての景観」や「土砂災害の危険」を心配する声が挙がっていまし。つくば市議会は2015年12月議会で、太陽光発電施設設置に反対する決議を全会一致で可決しています。住民らは12月、行政の協力を求めて施設計画に反対する2354人分の署名を集め、つくば市へ提出しました。
 2016年5月には、当時の市原健一市長が経済産業省を訪れ、発電設備の設置に関し、適切な基準を定めることなどを求める要望書を提出。6月には、筑波山と宝篋山で、太陽光と風力発電所の設置を禁じる規制条例案をまとめ、6月の市議会で、全会一致で可決し、即日施行しました。
 このつくば市の条例は、自然公園法の特別地域、土砂災害警戒区域、両地域と接する区域の設置を禁じ、区域内で無断施工した事業者には、報告や資料の提出を求め、事業の停止や是正を勧告するほか、従わない場合、業者名などを公表するなどとしています。残念ながら開発行為そのものを禁止する効力はありません。
 また、茨城県も井手県議らの働きかけを受けて、2016年、大規模太陽光発電施設を適切に設置・管理するためのガイドラインを策定しました。安全対策、設置不適当地域、地元の理解促進、事業終了後の撤去・廃棄の位置付けなどを示しています。このガイドラインも、あくまで指針で強制力はなく、県に設置を直接的に規制する条例は現在もありません。
 今回の地裁での敗訴はとても残念ですが、太陽光のパネルが筑波山の眺望に著しい障害を与えることは明らかであり、上級裁への控訴を強く求めます。