7月11日、井手よしひろ県議ら茨城県議会防災環境産業委員会は、県外調査で熊本現代美術館を訪れ、館内を視察するとともに震災復興とアートの力などについて、岩崎副館長より説明を受けました。
熊本現代美術館は、熊本市の中心市街地、交通量の多い通町筋と上通との交差点に建つ"びぷれす熊日会館"の3階に設置された、九州で唯一の現代美術を展示する美術館です。 ジェームズ・タレル、マリーナ・アブラモヴィッチ、草間彌生、宮島達男といった国際的に活躍する4人の現代美術家たちによるインスタレーション作品が館内に恒久的に展示されています。 また、数千冊の本が自由に読めるホームギャラリーや子育て相談もできる子育てひろばなど、メインの展覧会場以外は全て無料で利用することがでます。待ち合わせや休憩など、市民の憩いの場として利用されています。
この美術館を中心とする熊本市の取り組みが、「平成29年度文化庁長官表彰(文化芸術創造都市部門)」を受賞しました。文化庁長官表彰とは、文化芸術の持つ創造性を領域横断的に活用し、地域の特色を生かした文化芸術活動や社会課題の解決に、行政と住民との協働、行政と企業や大学との協力等により取り組み、顕著な成果をあげている市区町村を表彰するものです。熊本市は、市民参画型の文化財の修復と活用や、市民との協働を意識した熊本市現代美術館の運営が代表的な取組として、顕章されたものです。
2016年4月、熊本市は震度7の巨大地震に2度見舞われました。地震発生時に熊本市現代美術館では「だまし絵王エッシャーの挑戦状」が開催されていました。これはオランダの画家エッシャーと近現代の内外アーティストによる展覧会であり、初日から多くの観客が詰めかけていました。しかし、開催一週間たらずで大地震に見舞われ、展覧会は中断。美術館が入っているビル全体の修理が必要となり、一時閉館を余儀なくされました。
震災の復興・普及が進む中で、美術館の再開を急ぐべきなのか多くの議論があったようです。美術館の再開より、被災者の支援や避難所の運営を優先させ、職員もこうした業務に派遣すべきであるとの意見もあったようです。
しかし、熊本現代美術館は全く別の選択をしました。「街の中心地にある美術館だからこそ、街を明るく活気づけるためにも、美術館を美術館としして開けるべき」と結論付けました。
美術館を開館することが意味があるのか、アートに何ができるのか、被災者にいやな思いをさせるのではないかといった、不安の中、美術館の自らも被災者である職員は、不眠不休で再開の準備を行いました。
そして、震災から1か月もたたない5月11日にホームギャラリー、フリースペース、ショップ、子供広場等などの部分開館にこぎ着けました。そして5月18日、2つの小ギャラリーを使用して、中断していたエッシャー展を無料で再開することができました。
これを契機に、熊本現代美術館は、復興に疲れた市民のよりどころとなりました。復興を支援したと考える多くの人たちの活動の場となりました。そして1年が過ぎ、振り返ってみると、熊本現代美術館の入場者数は過去最高を記録していたそうです。
今、どこかの街で大規模自然災害が起こった際に、地方自治体の業務継続計画(BCP)の中で、文化施設の開館・運営が非常時優先業務に選定されている街があるでしょうか。災害時にアートや文化の復興は、様々なことが一段落してからだとほとんどの人は思っているかもしれません。しかし、熊本現代美術館の現体験は、アートの持つ力を実証し、その可能性を雄弁に語っています。
東日本大震災で大きな被害が出た北茨城市の天心記念美術館でも、同様な出来事が起こりました。震災で3か月ほど設備の改修で休館し、再開した天心記念美術館には、福島第2原発事故でふるさとに戻れなくなった人たちがたくさん訪れました。震災から1年後に開かれた「震災復興記念ウォルトで・ディズニー展」には、過去最高の10万人以上の来場者がありました。震災から立ち上がる被災地を、アートは力強く後押ししたのです。