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 生活困窮者に無担保で少額を融資し、自立を支援するグラミン銀行(バングラデシュ)の日本版が2018年9月、設立されました。そのサービスであるマイクロファイナンス(小口金融)とは何か。改めて確認してみたいと思います。
 グラミン日本のホームページ:https://grameen.jp/

2018年9月グラミン銀行「日本版」が始動
 一般社団法人グラミン日本(東京都中央区)は、9月13日に設立され、業務を開始しました。働く意欲があっても満足な職業に就けず、生活が困窮しているシングルマザーらを対象に低利、無担保で起業や就労の準備金を融資します。日本初の本格的なマイクロファイナンス機関として、「誰もが活き活きと生きられる社会」の実現を掲げ、国内の貧困削減をめざしています。
 グラミン銀行創設者・ムハマド・ユヌス博士の全面的な支援を受け、世界銀行日本代表理事などを歴任した菅正広・明治学院大学大学院教授が中心となって準備を進めてきました。昨年8月に発足した準備機構には、延べ100人近いボランティアが参加。今年3月には、インターネットで資金を募るクラウドファンディングにエントリーし、約2カ月半で目標の1000万円に到達しました。
 設立の背景には、国民の6人に1人、約2000万人が貧困ライン以下で生活しているという日本の現状があります。
 特に、シングルマザーなどのひとり親世帯は過半数が貧困状態にあり、社会的な課題になっています。また、親の収入が子どもの教育や雇用に影響し、貧困が連鎖する構造が生まれています。
グラミン日本のビジネスモデル
5人組で支え合う仕組みが基本
 ビジネスモデルは、5人一組のグループ融資(連帯保証にはしない)や毎週返済など、グラミン銀行の特徴的な手法が踏襲されています。その上で随時見直し、日本の実態に合った方法で運営するとしています。グループ融資は、まず2人に貸し付けされ、円滑に返済されれば残る3人も融資を受けることができる「2対3方式」。生活資金に充てることはできず、就労によって所得を創出するための使途に限られています。例えば、資格の取得費用なども融資対象になります。
 融資を受けるには、事前の金融トレーニングや週1回のセンターミーティングなどに参加することが必須条件で、かつ支店から1時間圏内に住んでいることが原則です。センターミーティングは、グループのメンバー間で仕事や生活の状況を共有し、励まし合い、支え合う場になるほか、グラミン日本のスタッフによる助言なども行われます。
 また、利用者の雇用に関心の高い企業とも連携し、出口となる仕事の機会もセットで提供します。
 今後、10月14日に第1回の利用者向け説明会を開催し、以降、隔週で実施する予定になっています。

マイクロファイナンスとは少額を無担保で融資し、生活困窮者の自立を後押しする仕組み
 マイクロファイナンスとは、銀行など一般的な金融機関のサービスを受けることができない貧しい人々を対象に提供されます。小口の融資や貯蓄、保険、送金といった金融サービスの総称です。貧困者による零細事業などの運営に役立てることで自立を後押しします。
 貧困者は、生活資金が少ないため十分な教育を受けられないことが多くあります。病気になるリスクも高く、医療サービスが不足しがちです。その結果、生活基盤は脆弱になり、また新たな貧困を引き起こすという悪循環に陥りやすくなります。仕事で所得を増やそうとしても、始めるための資金を工面する手段が限られています。マイクロファイナンスは、この悪循環を断ち、貧困者が貧困状態から脱出することを目的にしています。
 古くから貧困者向けに預金や貸し付けを行う組織自体はありましたが、1983年にバングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス博士がグラミン銀行を設立し、現在のマイクロファイナンスの礎を確立。その功績により、ユヌス博士と銀行が2006年、ノーベル平和賞を受賞し、世界的に知られるようになりました。
 グラミン銀行の設立当初のビジネスモデルは、5人一組のグループ融資が特徴でした。利用者同士で互助グループを作り、順番に融資を受ける仕組みです。返済が滞ると次の人が融資を受けることができないため、互いに協力し合う効果が期待できます。このほか、毎週一定額の返済や技術指導などの仕組みを通じ、100%近い返済率を達成してきました。

運用コストを携帯送金でカバー
 一方、マイクロファイナンスの長年の課題とされてきたのが高い運用コストです。特に、治安の悪い地域や交通の便が悪い奥地などへの回収業務がネックでしたが、2010年代に携帯電話による送金が可能になり、業務環境が劇的に変化しました。
 危険性とコストを下げる効果が大きな注目を集めています。
 2015年の統計によると、マイクロファイナンスの提供機関は中南米やアフリカ、南アジアなどの開発途上国を中心に1380団体あり、1億1700万人が利用しています。ただ、国によって届け出の制度が異なるため、実際は統計に反映されていない機関も相当数に上ると見られています。
 日本ではこれまで、いわゆるマイクロファイナンスの提供機関はほとんどありませんでした。消費者金融は貧困削減を目的としたものではなく、使い道も基本的に制限されていないなどの点で異なります。