東海第2原発のPAZ、UPZ NHK水戸放送局が、原発事故の際に住民が建物の中に避難する「屋内退避」について、東海第二原子力発電所の周辺で対象となる13の市と町と茨城県に対し、住民への周知が進んでいるか取材したところ、「進んでいない」と回答した自治体が半数に上ったことが、10月13日のニュースで明らかにされました。
 福島第一原発の事故のあと、国は原子力発電所で事故が起きた場合、原発から5キロ以上、30キロ圏内に住む人たちに対し原則として建物の中に避難する「屋内退避」をするよう定めています。
 NHKが東海第二原発周辺で対象となる13の市と町、それに茨城県に対し、屋内退避について「住民への周知が進んでいるか」取材したところ、「進んでいない」または「どちらかといえば進んでいない」と回答したところが、県を含む7つの自治体に上りました。
 その理由としては「広域避難計画の策定を優先している」とか、「住民への説明会を行っていない」といった回答が多くを占め、緊急時の対応を住民にどのように伝え安全な避難につなげるか、課題が浮き彫りになりました。
 これについて県原子力安全対策課は「原発周辺に多くの人が住む茨城県ではスムーズな避難のために屋内退避が特に重要になるので、効果的な周知の方法を検討していきたい」と話しています。
 ここで、国のHPなどから、原子力発電所の避難計画について、その基本的な考え方を再確認しておきたいと思います。
原子力発電所の避難計画は、30キロ圏内の市町村で策定される
 原子力災害に備えた防災対策を講じる重点区域の範囲は、福島第一原発事故の前は、原子力発電所から8〜10km圏とされていました。
 しかし、福島原発事故では、この範囲を超えて避難等が必要になりました。この教訓とIAEA(国際原子力機関)の国際基準も参考にして、原子力規制委員会が策定した原子力災害対策指針では、概ね30km圏に拡大しました。
 これに伴い、原子力災害対策に係る地域防災計画や避難計画も30km圏の範囲について策定することになっています。
 IAEAの国際基準では、原子力発電所で事故が発生し緊急事態となった場合に、放射性物質が放出される前の段階から予防的に避難等を開始するPAZ(Precautionary Action Zone:予防的防護措置を準備する区域)と、屋内退避などの防護措置を行うUPZ(Urgent Protective action planning Zone:緊急防護措置を準備する区域)を設けることになっています。
 IAEAの国際基準を参考に原子力災害対策指針では、PAZについては原子力発電所から概ね5km圏とすることを、UPZについては概ね5〜30km圏とすることを定めています。

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5キロ圏内は迅速に避難、30キロ圏内は室内退避が原則
 事故の進展に応じて避難の準備等を行うため、原子力施設の事故の状況に応じて、警戒事態、施設敷地緊急事態、全面緊急事態の三つに区分し、その区分を客観的に判断できる基準として、EAL(Emergency Action Level:緊急時活動レベル)が設定されました。
 これらの緊急事態の区分に応じて、以下の表に示すように、早期の段階から避難等の準備を開始し、施設敷地緊急事態の段階でPAZ圏の要配慮者等の避難を開始、全面緊急事態の段階でPAZ圏(5キロ圏内)の全ての住民の避難を開始します。
 一方、全面緊急事態となった場合、UPZ圏内(5キロ〜30キロ圏内)の住民は、屋内退避をして、放射性物質の影響をできるだけ回避することにしています。
 さらに、放射性物質が環境中に放出された後の緊急時モニタリングの結果、空間放射線量率が一定以上に上昇した場合には、一時移転などの防護措置を行います。
 このための判断基準としてOIL(Operational Intervention Level:運用上の介入レベル)を定めています。
 室内退避とするのは、放出された放射性物質が通過する時に屋外で行動することで、かえって被ばくすることを回避するためです。
 また、建物内に退避することによって、放射性物質からの放射線量を低減できることや放射性物質の体内への取り込みを低減することで、放射線の影響をできるだけ回避することができます。

県及び市町村は予め避難する場所や経路を設定する
 PAZ及びUPZ圏内の住民が避難する場合には、あらかじめ、道府県・市町村の地域防災計画・避難計画で、UPZの外に避難先や避難経路を設定します。
 その際には、避難の対象となる住民を十分収容できる避難先を確保するとともに、避難経路については、自然災害等による通行不能も考慮し、複数の経路を定めています。
 関係の地方自治体は、避難計画について、平時から住民の方々へ情報提供を行うこととしています。

避難に当たって要配慮者への対応
 福島事故の教訓を踏まえ、原子力規制委員会が策定した原子力災害対策指針では、PAZ圏の避難において
(1)避難の実施に時間を要し、かつ配慮が必要な方(要配慮者)については、原子力発電所で事故が発生し施設敷地緊急事態となった時点の早期の段階で避難を開始することとしています。
(2)避難行動により、健康リスクが高まる要配慮者は、無理な避難行動は行わず、放射線防護対策が講じられた施設に屋内退避することとしています。屋内退避した要配慮者については、避難の準備が整った段階で避難することにしています。

避難に当たって交通渋滞や複合災害へどのように対応するか
 原子力災害時が発生した際、円滑に住民避難が行われるよう、交通対策を実施します。
 また、避難車両を示すシールの配布や避難誘導標識の設置を行うといった地域に応じた取組を進めています。
 さらに、自然災害との複合災害により道路等が通行不能となった場合に備え、避難経路をあらかじめ複数設定したり、被災した道路等の復旧や代替経路などの対策を用意したりしています。

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安定ヨウ素剤は事前に配布し、服用の指示に基づき服用します
 PAZ圏内(5キロ圏内)では、安定ヨウ素剤を住民に事前配布することとしています。
 そして、全面緊急事態に至った場合の避難の際に、服用の指示に基づき速やかに服用することとしています。
 UPZ圏内(5〜30キロ圏内)では、全面緊急事態に至った場合、屋内退避を実施した後、必要に応じて、避難や一時移転等の防護措置を講ずる際に緊急配布を行い、服用の指示に基づき服用することとしています。
 服用の指示については、原子力規制委員会が必要性を判断し、その上で、原子力災害対策本部又は地方公共団体が服用の指示を出すこととしています。

避難時に食料・飲料、生活用品、ガソリン等が不足した場合は、国や都道府県が確保します
 市町村からの物資の要請に対し都道府県や国が対応するだけでなく、要請がない場合でも必要と判断された場合に国や都道府県は物資を被災地に送り込むこととしています。
 物資関係省庁は、あらかじめ、食料、飲料水、医薬品等の生活必需品並びに通信機器等の物資の調達体制を整備し、災害時には関係事業者、関係業界団体などの協力等により、供給を確保することとしています。
 ガソリンなどの燃料に関しては、その物資所管官庁である経済産業省が、あらかじめ燃料の調達体制を整備し、災害時には関係事業者、関係業界団体などの協力等により、供給を確保することにしています。