広島市原爆ドーム
 2017年7月に国連総会で採択された核兵器禁止条約(核禁条約)を巡り、核保有国と条約推進派の非保有国の間に深い溝ができました。しかし、核禁条約がめざす核廃絶には核保有国の協力が不可欠です。核廃絶という目的は共有できるが、直ちに禁止するよりは核軍縮を着実に進める方が効果的と考える日本は、双方の有識者からなる外務省主催の「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」(賢人会議)を昨年設置、双方の対話が可能なテーマを探っています。
 長崎市で11月14、15日に開かれた第3回会合でも“橋渡し役”をめざして議論を続けたが結論は出ませんでした。賢人会議が示した問題提起と、賢人会議に期待される役割を紹介するとともに、発効に手間取る核禁条約の現在について、公明新聞11月28日付記事【解説ワイド】より転載します。

■厳しい対立の構図:乗り越えるべき困難な問題に挑む
 「どうやって二つの立場を橋渡しするような『共通の土台』を見つけるかについて、私としては完全に分かったとは言えない」と、第3回会合を終えた白石隆座長は、15日の記者会見でこう述べました。会合では「核兵器の役割や価値」を「正当化する議論」と「非正当化する議論」という、核兵器に対する考え方の違いが最も顕著に現れるテーマについて話し合いが行われました。
 白石座長は、「正当化する議論」を国家の安全保障を重視する立場、「非正当化する議論」を人道性や規範性の観点からの主張であると整理しました。この分け方は、国際司法裁判所(ICJ)が1996年の「勧告的意見」で示した核兵器に関する初の法的判断と共通しています。
 ICJは、核兵器による威嚇または使用は、「一般的には武力紛争に適用される国際人道法の原則に反する」が、国家存亡の危機に際しての自衛目的の場合は「合法か違法か明確な結論を出せない」と判断しました。
 国際人道法という規範に違反するとの判断は「非正当化する議論」の根拠となり、自衛目的の場合の結論が保留されたことは「正当化する議論」の根拠となり得ます。
 この対立する議論を踏まえた上で、賢人会議は双方の対話を成り立たせるための「共通の土台」を探る作業を進めています。
 賢人会議は3月にまとめた提言で、この対立する議論を「困難な問題」と位置付け、厳しい対立の構図があるにもかかわらず、対話の議題として、これと正面から向き合うべきだと訴えていました。
 白石座長は記者会見で「違う考えのメンバーが敵対せず尊敬しながら議論ができた。これは非常に重要だ」と述べ、来年前半に開く予定の会合では「困難な問題をさらに深める」と意欲を示しました。

■NGOからの要請:抑止論の危険性を明確にしてほしい
 賢人会議は15日午前、核禁条約採択の推進で昨年のノーベル平和賞を受賞したICANなどNGO(非政府組織)の代表と意見交換を行いました。NGO側は、賢人会議の3月の提言に基づき、議論のあり方などを要請しました。ここでも対立する双方の対話が実現した時の議題として賢人会議が模索している「困難な問題」について活発な議論が行われました。
 NGO側からは冒頭、「賢人会議は、国の自衛の極限状況において国際人道法を考慮した上で許容される核兵器の使用があり得るかが今後議論すべき『困難な問題』の一つだとしているが、人道上許される核兵器の使用などあり得ない」と訴えました。
 しかし、NGO側は同時に、賢人会議が提言の中で、核抑止について「長期的な国際安全保障にとって危険であり、全ての国は、より良い長期的解決策を模索しなければならない」としたことに関し、「長期的のみならず今日においても危険」と反論しながらも、「核抑止に代替する安全保障の必要性に言及されたことを評価する」と言明しました。さらに続けて、「次の提言には核抑止の危険性を明確に盛り込んでほしい」と要請しました。これについてNGO側から「核抑止が無限定で安全を確保するという前提でいいのか」との問題意識があることも伝えられました。
 またNGO側は、核保有国が核禁条約を敵視し批准しないよう圧力をかけていると述べ、「冷静な対応をするよう助言してほしい」と求めました。
 白石座長も15日の記者会見で、国連での政府間の議論が「伝え聞くところでは非常にとげとげしくなっている」と述べ、礼節ある議論の模範を示すことも賢人会議の重要な役割であると強調しました。

■賢人会議とは
 核軍縮の進め方を巡り、核保有国と非保有国、また非保有国間の対立が顕在化する中、岸田外相(当時)が20年NPT運用検討会議に向けた第1回準備委員会(17年5月)で信頼関係再構築のために設置を表明しました。その後、7月の核禁条約採択で対立が激化、双方の橋渡しをめざし議論を続けていまする。
 公明党は被爆地開催の提案など一貫して支援してきました。