
厚生労働省は、今年8月、平成29年人口動態統計月報年計の結果を取りまとめ公表しました。人口動態調査は、出生、死亡、婚姻、離婚及び死産の人口動態事象を把握し、人口及び厚生労働行政施策の基礎資料を得ることを目的としています。
この統計によると、一貫して増加傾向が続く大腸がんや平成26年に減少に転じた肺がんに対し、胃がんは23年以降減り続け、28年までの5年でおよそ1割減となりました。
胃がんは、肺がん、大腸がんと並ぶ3大がんの一つです。死者数の減少傾向が5年続き、医療関係者からも「画期的だ」という声もあがっています。
胃がんの原因となるピロリ菌の除菌治療が、保険適用で普及したことが一因とみられます。胃がんのリスク検査を導入する自治体も増えており、減少傾向がさらに続くことが期待されています。
胃がんによる年間の死者数は、平成28年の統計で男性2万9737人、女性1万5473人、合計4万2510人でした。一方、平成17年は男性3万2643人、女性1万7668人、合計5万311人でしたから、男性2906人、女性2195、合計5101人の減少となりました。15.5%もの減少となりました。
この胃がんの死者数の減少傾向について、ピロリ菌研究の第一人者である北海道医療大の浅香正博学長は、「画期的。保険適用の拡大で、ピロリ菌除菌治療を受ける人が増えた成果と思われる」と語っています。

2014年、世界保健機関(WHO)の専門組織「国際がん研究機関(IARC)」が、「胃がん対策はピロリ菌除菌治療を中心とすべき」とする報告書をまとめました。IARCは、胃がんの8割はピロリ菌感染が原因で、除菌によって発症は3〜4割減ると指摘しています。
公明党などの主張により、平成25(2013)年、それまでの胃・十二指腸潰瘍に加え、慢性胃炎にもピロリ菌除菌治療の保険適用を拡大されました。その結果、除菌治療を受ける人が増加。除菌が必要か調べる際の内視鏡検査で早期胃がんが発見される頻度が増す効果もあり、相乗効果的に死者数の減少につながりました。
それでも、ピロリ菌検査の導入は、自治体や企業で独自に進んでいます。血液検査でピロリ菌感染と胃粘膜萎縮の有無を調べ、胃がん発症の危険度合いを調べる「胃がんリスク検診」を導入する自治体は29年度で277に達しました。これは、全自治体の16%にのぼっています。
NPO法人「日本胃がん予知・診断・治療研究機構」事務局長の笹島雅彦医師は「リスク検診で高リスクに分類された人が確実に内視鏡による検診を受ける。これが、胃がんの早期発見・治療につながり、さらなる胃がんの死者減が期待できる」と語ります。
平成20年度からリスク検診を導入している東京都目黒区では、29年度までに約4万6千人が受け、10年間で100人に胃がんがみつかりました。目黒区の健康推進課では「導入前の検診による発見は年1〜2人だったが、導入後は平均年10人。7割が早期がんで、早期治療につながった」と評価しています。
北海道医療大では4月から学生にピロリ菌検査を義務づけ、感染者には同意を得た上で内視鏡検査と除菌治療を実施。検査と治療にかかる費用は大学が負担しています。来年4月からは職員のバリウム検診を廃止し、リスク検診に切り替える予定です。
浅香学長は「胃がんで命を落とすのは“もったいない”時代に入った。ピロリ菌感染の有無が不明の人はぜひ一度検査を受け、感染が分かったら除菌治療や定期的な内視鏡検査を受けてほしい」と呼びかけています。
一方、厚労省のがん検診の指針では、胃がん対策として50歳以上に2年に1回のバリウムか内視鏡の検査を推奨しており、ピロリ菌検査は推奨していません。
厚生労働省がん疾病対策課は、死者数ではなく「年齢構成を補正した年齢調整死亡率」を基準としたうえで、「胃がんの死亡率は50年前から減少している。検診の普及や治療技術の進歩、ピロリ菌感染者の減少…などさまざまな理由が考えられる」とし、死亡者数の減少が除菌治療の成果とする考えには否定的です。
厚労省のこうした頑なな姿勢は、早期に転換する必要があると考えます。この記事は、平成29年人口動態統計月報年計の結果と産経新聞(2018.9.13)の記事をもとにまとめました。