
老後の生活費は2000万円不足するとした金融庁の報告書に、大きな反発が広がっています。
様々な議論が交わされる中で、6月26日付けの朝日新聞【耕論】の3人の意見は、正鵠を射ています。
まずは、「年金安心100年プラン」の生みの親とも言われる元厚労大臣の坂口力氏。
高齢者の生き方、暮らし方の問題と、年金制度の持続性というまったく別な話がごっちゃにされてしまっているのが問題です。一律のデータを使って国民の不安をあおり、株や投資信託を始めさせようというのはおかしい。
「年金100年安心プラン」という言葉は、私が初代厚生労働大臣として年金改革に取り組んでいた2003年に、総選挙向けに公明党が打ち出しました。
当時、年金制度がコロコロ変わっていて、これから年金の制度そのものは大丈夫なのか、崩壊するのではないか、といった不満と不安が出ていたのです。04年に抜本的な改革を行ったのは、100年後も年金制度そのものが安心できる存在にしなければ、という思いからでした。
日本の年金制度は、現役世代が払う保険料を高齢者に渡す「仕送り方式」です。ですから、少子高齢化で高齢者が増え、働く世代の人口が減れば、給付は減ってしまうのです。そこで、現役世代の負担が重くなり過ぎないよう保険料の上限を固定し、国庫補助を増やし、年金積立金を100年かけて一部取り崩すことなどを導入し、安定化させたのです。給付水準を調整して減らすこともあり得ます。100歳までだれでも年金だけで十分生活できる給付が受けられるということをうたったわけではなく、100年後も公的年金が高齢者の生活の柱となるように、抜本的な改革を行ったのです。
2人目は、週刊東洋経済編集長の山田俊浩氏。
そして3人目は、ファイナンシャルプランナーの岩城みずほさん。
立場の違う3氏の意見は至極全うです。その視点は必ずしも同じ方向性はありません。「年金安心100年プラン」への評価もまちまちかもしれません。
しかし、共通しているのは、年金問題を政争の具にして、不安だけをあおることは絶対に許されないということです。
政府(金融庁)の安易な姿勢、野党の無責任な姿勢が、今回の騒ぎの原因にほかなりません。
定年後のお金について特集すれば、販売部数が伸びる傾向があります。都市部だけでなく郊外でも売れ、家族の問題として読んでいただいているようです。
関心の高さの背景にあるのは、不満と不安でしょう。就職氷河期に正社員になれず低賃金に苦しむ人は、一部の恵まれた人が優遇されていると感じています。不安をあおって売ろうとするメディアがあり、金融機関から「不安ですよね」と説明され、政府も「足りない」と言えば、不安になるのは自然です。
「2千万円報告書」を出した金融庁の審議会は、そんな世の中の敏感さを理解していませんでした。過去20年間、「年金は破綻(はたん)する」とあおられては、それを打ち消すのに苦労してきた厚生労働省も審議会オブザーバーだったのに、「もっと危機感をあおれ」という委員に押されて、あのような報告書になってしまった。理解に苦しみます。<中略>
年金は、生活保護のような公助ではありません。保険料を払った人たちによる共助で、全てを国がまかなうものではないのです。老後の生活を支える基盤となりますが、このままの年金や退職金だけでは苦しい層がいることも事実。厚生年金の網を非正規雇用者へ広げることや、救貧政策の見直しを併せて考えていく必要があります。
高齢期の生き方は、特に知ってもらいたいです。引退を延ばして年金受給を1年繰り下げるごとに、8.4%受給額が増えます。5年繰り下げれば、42%増えます。
そして3人目は、ファイナンシャルプランナーの岩城みずほさん。
金融庁の報告書が話題になってから、老後資金に関するセミナーの参加者が増えたと聞きます。しかし、その裏に売りたい商品がある場合、コストの高い商品を薦められてカモにされます。不安だからといって、金融機関や保険販売の窓口に行って商品を買うのは待って下さい。まずは、一人ひとり違う必要な貯蓄額を知ることです。老後の収入の柱になるのは公的年金です。その受給額によって、必要な貯蓄額は違います。
公的年金を補う自助努力が必要で、長期・積立・分散投資が有効だと伝わったのは良かった点です。私の20代の娘が、SNSでの炎上を見て、年金について聞いてきました。老後資金に興味がなかった人が、興味を持つきっかけになったと思います。
残念だったのは、平均値の数字が独り歩きして不安を覚えた人が多かったこと。金融機関の商品パンフレットなどでは平均値を示し、足りないから、この商品がお薦めですという言葉はよく使われています。月5万円不足するなら、それなりの生活をすればいい。どんな生活をしたいのか、そのための必要貯蓄額はいくらなのか、といった、自分の老後の生活を考える方法を伝えるべきでした.。
立場の違う3氏の意見は至極全うです。その視点は必ずしも同じ方向性はありません。「年金安心100年プラン」への評価もまちまちかもしれません。
しかし、共通しているのは、年金問題を政争の具にして、不安だけをあおることは絶対に許されないということです。
政府(金融庁)の安易な姿勢、野党の無責任な姿勢が、今回の騒ぎの原因にほかなりません。