ナチスドイツの宣伝大臣ゲッベルス
 7月21日に投開票された参院選挙は、日本の政治にとって一つのエポックとなったと実感しています。それは、山本太郎氏が率いるれいわ新選組(れいわ)と立花孝志氏が主宰する「NHKから国民を守る党(N国)」が、比例区で2議席、1議席と議席を得たことです。ともに、国から政党交付金を受ける資格・政党要件も獲得しました。特に、れいわの台頭は、日本に初めて「左派ポピュリズム政党」が誕生したとマスコミはもてはやしています。
 世界的にヨーロッパや南米で吹き荒れるポピュリズムの風が、日本でも現実のものとなったということです。れいわの比例での得票率は4.6%に達し、野党の老舗・社民党の得票率を大幅に超えました。山本太郎の訴えは、既成野党への不満の受け皿となり、自らは当選できなかったものの特定枠に据えた2人の障がい者を国会に送り込みました。彼らのその主張は、ポピュリズム、特にヨーロッパの左派ポピュリズムそのものです。
 左派ポピュリズムは、ウィキペディアによると、「左派政治とポピュリストのレトリックや主張とを結びつける政治的イデオロギーである」と、定義されています。「左派ポピュリズムのレトリックはしばしば反エリート感情、エリートたちが創った制度への反抗そして「庶民」を支持する発言から成る。左派ポピュリストにとって重要な主題は通常、反資本主義、社会正義、平和主義そして反グローバリズムを含む。他方で、伝統的左派政党にとって重要な階級社会イデオロギーや社会主義理論は左派ポピュリストにとってはそれほど重要ではない。この立場が資本主義とグローバリズムを批判することは反米主義と結びついている。この反米主義は、アメリカによる評判の悪い軍事行動、とりわけ中東地域における軍事行動の結果として左派ポピュリスト運動の中で高まっていった。左派ポピュリストは皆、他者を排除することがなく、彼らは平等主義の理念に依拠していると考えられている」と続けられています。
 山本太郎氏の演説をユーチューブなどで見ると、反原発、反消費増税など庶民受けするわかりやすいものです。雨の中で、傘もささず、熱弁をふるう姿は、真剣さと受け取られ、参加した人々の共感を呼んでいるようでした。
 「いまの政治はみなさんへの裏切り。20年以上続くデフレは異常!物価が下がり続け、消費が失われ、投資が失われ、需要が失われ続け、国が衰退している。デフレを続けてきたのは自民党の経済政策の誤りの結果でしょう!」「消費税は増税じゃない、腰が引けた野党が言う凍結でもない。減税、ゼロしかないじゃないですか!」
 さらに、「選挙は、政治はおもしろくないといけない」と強調して、難病患者や障碍者が国会の赤じゅうたんを踏むサクセスストーリーを演出しました。
 山本太郎氏の政策は徹底的な行財政改革の対極にある財政出動と減税です。現状の経済状況をデフレと断じ、その責任を安倍政権に寄せています。その脱却のために、消費税を廃止し、国はもっとお金をかけて財政出動せよと主張します。その財源は富裕層と大企業からの増税でまかなえるとします。注意深く観ると、その主張の多くは共産党の主張そのものであることに気づきます。
 また、福島第1原発事故に関する過激な発言は、単に反原発という次元を超えて、福島県の住民への差別的な感情を助長するとの厳しい批判が寄せられました。
 さらに、今回の選挙では奨学金にかかわる発言も注目を浴びました。「法人税、所得税に累進制を導入する。この二つによって、財源は29兆円担保できるという試算がある。消費税を廃止するのと、奨学金チャラにするのに使っていいですか?」との叫びは、れいわに一票を投じた有権者に強く響いたのではないでしょうか。『 奨学金チャラにする=奨学金徳政令』とのフレーズには爆発力がありました。

 山本太郎に象徴される左派ポピュリズムには、私は2つの危険性を感じています。
 その一つは、彼らの主張が果たして真実を語っているかという疑問です。自らの勢力を拡大するために、真実らしきもの、または誤った事実を真実のように見せかかて、大衆をミスリードしているのではないかという危惧です。
 具体的な事例を挙げます。山本太郎氏は参院選の政見放送で、「消費増税分は社会保障の充実と安定のために使うと言っているが、社会保障の充実に使われたのはわずか16%」との主張しました。多くの人が消費増税分が社会保障と関係のない公共事業などに使われているのではないかと疑問を持つ表現です。
 これに対して、ネット上でファクトチェックが行われました。結果は「ミスリード」。社会保障の充実に使われたのは確かに16%、しかし残りは社会保障の安定のために使われており、あたかもそれ以外に使われているかのように有権者に誤解させることは「ミスリード」と言うことです。
 さらに、「安倍政権になって、社会保障費が4兆円も削減された」と強調します。しかし、社会保障費全体が増えている事は論を待ちません。なぜ、社会保障費が減ったというかというと、年金に関わるマクロ経済スライドで減額された年金分をその計算に入れているからです。ご存知のように、マクロ経済スライドとは現在の年金制度を将来に向けて安定的に運営するために、物価上昇分より低く年金の引き上げ率を設定する仕組みです。年金額が減らされたわけではありません。その伸び率が圧縮された分を、社会保障費の減と計算したものです。
 いずれも、事実は正しいかもしれませんが、それは、政権を批判するための道具として巧妙に脚色された数字と言わざるを得ません。
 こうした欺瞞性を、有権者としての国民は見抜いていかねばなりません。と同時に、政府も与党議員も、そしてマスコミも国民に分かりやすく説明していく必要があります。
 2つ目の危惧は、山本太郎氏やその関係者の背後に存在する反社会的勢力の存在です。多くのネット上の論調を見ると、新左翼、北朝鮮の勢力の存在を指摘しています。
 2013年、山本太郎氏が初めて東京選挙区から参院選に挑戦した際、極左テロリスト集団である新左翼系のセクトが支持表明し話題となりました。この参院選のれいわの選挙参謀といわれる人物は、よど号ハイジャック事件などにも関与した人物に近しいものであり、公民権停止中であると言われています。
 日本の左派ポピュリズムの背景にあるものは、現状の社会の問題点をテコに民衆を扇動し、民主主義と対局な社会状況を作り出そうとする集団です。私たちは肝に銘じていかねばなりません。
 ワイマール憲法下のドイツが、ナチスドイツ独裁の軍事国家化に移行する過程には、ポピュリズムの手法を巧みに駆使したヒットラーや宣伝大臣ゲッベルスの存在があったととされています。