鹿島アントラーズに県民栄誉賞
 7月30日午後、フリマアプリ大手のメルカリが、鹿島アントラーズFCの経営権を取得するとのニュースが飛び込んできました。
 鹿島アントラーズは、1993年のJリーグ発足以降、地域に根差したプロサッカーチームとして定着し、リーグ優勝8回、Jリーグカップ優勝6回、天皇杯優勝5回、AFCチャンピオンズリーグ優勝1回の計20冠を達成するJリーグの“常勝軍団”です。
 公式プレスリーリースでは、「メルカリは、日本だけでなく世界のトップを目指す鹿島アントラーズの姿勢に共感し、ともに世界を目指す仲間として2017年にクラブオフィシャルスポンサー契約を締結して以来、鹿島アントラーズをサポートしてまいりました。このたび、メルカリの持つテクノロジーと経営ノウハウを提供することが、さらなる経営基盤の強化に繋がると判断し、日本製鉄から株式を譲り受ける契約を締結するにいたりました。今後、鹿島アントラーズのホームタウンである鹿行地域(鹿嶋市・潮来市・神栖市・行方市・鉾田市)と一体となり、メルカリ・鹿島アントラーズ・地域の三位一体でスポーツ事業の振興に貢献し、すべてのアントラーズファミリーの皆さまに愛されることを目指してまいります」とされています。
 しかし、この株式譲渡は地元サポーターにとっては、まさに青天の霹靂でした。
 鹿島アントラーズFCは、日本製鉄とその子会社が保有する発行済み株式72.5%のうち61.6%を、メルカリに譲渡する契約を締結したと発表しました。譲渡額は15億9700万円ということです。
メルカリ小泉社長
 Jリーグの理事会で承認され、午後に正式発表されましたが、そのニュースの真意は茨城県などとは共有されておらず、県の担当者もサポーターからの問い合わせに、「現在、詳細な情報を入手中です。ネットニュースと同じ内容の情報しか持っていません」と答える状況でした。
 地元サポーターやファンにとって、最大の関心事は、「鹿島サッカースタジアムのホームタウンが変更されてしまうのではないか」という懸念です。
 今までも、味の素スタジアムや新国立競技場などに、本拠地変更の噂が流れていました。茨城県民にとって、鹿島アントラーズは地元そのものサッカーチームであり、地域活性化の中心的存在なのです。
 昨夜、私は地元自治体トップの一人に電話で問い合わせたところ、「鹿島FCと引き続き地元自治体との連携を強化し、ホームタウンを変更しない」という協定を結んだとの話を聞きました。鹿島アントラーズが、株式の譲渡先にメルカリを選んだ理由も、地元との一体的な経営の継続が期待できるからとの情報を確認することが出来ました。

メルカリ創業者・小泉社長の父親は行方市出身、本人も熱心なアントラーズサポータ!
 2017年からオフィシャルスポンサーを務めてきたメルカリ。メルカリの創業者・小泉文明社長は、実父が鹿島アントラーズのホームタウンである行方市(旧麻生町)出身で、自身もJリーグ発足当時からスタジアムへ足を運んでいたファンであることを、自らのfacebookで明らかにしました。
 「基本方針として、ジーコ選手をはじめとした創設時から大事にしているクラブ強化のフィロソフィーや方針は変えずに、またホームタウンやホームスタジアム、またチーム名も変えることは考えておりません」「私の父親は鹿嶋市の隣り町である麻生町(現、行方市)の出身で子どもの頃からお正月やお盆によく遊びに行ってました。1993年のJリーグ開幕元年、鹿島スタジアムのこけら落としの試合であるフルミネンセ戦を初めて生で見て、ジーコ選手のプレーに感動し、サッカーの楽しさに魅了され、それ以来ずっと鹿島ファンですが、それ以上に何もなかったあの町がサッカー1つでこんなにも盛り上がり、景色が変わる様にとてつもない興奮と感動を覚えました。Jリーグが掲げる100年構想の実現に向け、これからさらに鹿嶋市をはじめとした鹿行地域に貢献し、鹿島アントラーズと地域と三位一体になって経営してまいりたいと思っております」と綴っています。
 鹿島アントラーズとメルカリは、これまで何度も話し合いを重ねており、ホームタウンを移転せず積極的に地域貢献を行うこと、鹿島の伝統を尊重した経営を順守することなどが、経営権譲渡の決め手となりました。
 メルカリは6月期の連結決算で7期連続の赤字を計上していますが、これは新規事業への投資を行っているからです。資金調達も順調といい、鹿島を子会社化する上で問題がないことは、日本製鉄も精査済みです。今後メルカリに深刻な経営危機が起こった際も株式買い戻しの意志もあるとのことです。
 具体的に、メルカリが鹿島アントラーズの親会社となることで、双方にどんなメリットがあるのか。メルカリの主要サービスであるフリマアプリ「メルカリ」やスマホ決済サービス「メルペイ」は、利用者層が若い女性層です。一方で鹿島のファン層は40代男性が多く、両者が異なる利用者、ファンを有していることで、相互の乗り入れが可能となります。ACL王者鹿島アントラーズの親会社になることは、企業のブランド力向上にももってこいです。
 一方の鹿島アントラーズにとっては、メルカリのもつテクノロジーを享受できます。実物と映像を融合させた「プロジェクションマッピング」を使った広告を打ち出すことで、これまで広告を出していなかった企業を取り付けることなどを検討しているといわれています。
 小泉社長の言葉を借りれば「三方良しの経営ができる」ということになります。

アントラーズ、メルカリ、地元の三位一体となった経営を
 そもそも、ファンの一人としては、譲渡額の約16億円というのは安すぎないのかという思いがします。鹿島アントラーズは地道な経営努力もあり、年間の営業収益を70億円規模にまで伸ばしてきました。親会社の支援なしでもクラブ経営ができるまでに成長してきましたが、その規模を維持するには親会社の支援は無視できません。鹿島アントラーズは1947年に誕生した住友金属蹴球団。72年間にわたって鹿島アントラーズを運営してきた住金は、2012年に新日鉄に吸収合併されました。新日鉄は野球やラグビーの名門。この企業文化の違いが少なからず今回の株式譲渡に繋がったのではないかと推測されます。スポーツ事業の主導権は、当然新日鉄側が持ち、住金側の意見は反映しづらくなったといわれています。鹿島担当の窓口は、役員クラスから部長クラスに下がりました。
 将来を見据えた親会社から支援に暗雲がたちこめたことから、鹿島アントラーズは新たにサッカーへの理解がある企業を模索しました。その過程で、外資系会社の日本法人も含み、複数の会社から打診を受けたとされています。中には100億円規模の資金を投資する代わりに、地元を東京に移転し、ホームスタジアムを新国立に移すことを提案する企業もありました。
 地元重視の経営を維持することを第一条件に、提携先はメルカリが選ばれたということです。鹿島アントラーズの経営陣は巨額の資金より地元優先の選択をしたと拍手を送りたいと思います。
 今回の決定には、草創期から鹿島とともに歩み、現在テクニカルディレクターを務めるジーコ氏も理解を示していると報道されています。8月中には小泉社長が鹿島の社長に就任する見込みです。
 現在、県立カシマサッカースタジアムは、鹿島アントラーズと2011年から10年間にわたる指定管理者契約を結んでいます。当時は異例の長期契約との批判もありましたが、結果的には大正解だと思います。2020年のオリンピック鹿島開催の後の、次の契約更新(2021年)が、一つの山場になります。
 スポーツによる地域振興という、全国でも稀有な活動を続ける鹿行地域。その命運を握る鹿島アントラーズと、地元市町村との関係は、メルカリの経営権取得のもと、新たな時代を迎えた事は事実です。