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内閣府、宿泊施設など活用を訴え/親戚・知人宅、車中泊……自治体も“分散”呼び掛け

 新型コロナウイルス拡大の「第2波」が懸念される中、本格的な雨の季節を前に、豪雨災害などが発生した場合の避難所運営に大きな問題が浮かび上がっています。従来の避難所は、ウイルスが拡大しやすい密集、密接、密閉の「3密」の条件がそろっているためです。
 内閣府などは4月、避難所での新型コロナの感染拡大を防ぐため、都道府県などに対し、通知を発出しました。避難者が分散できるよう事前に定めた指定避難所以外にもホテルなどの宿泊施設を活用し、通常よりも可能な限り多くの避難所開設を求める内容です。ここでは、避難所内の十分な換気や、発熱している人がいる場合の専用スペース確保なども求めました。
 防災・減災や災害復興に関わる58の学会でつくる「防災学術連携体」も5月1日、感染症と自然災害の複合災害に備える「緊急メッセージ」を発表しました。その中では、現状では感染リスクを考慮した避難が必要だとして、自宅のほか友人・知人宅を自主避難所として決めておくことや、公的避難所を利用する住民の数を町内会などが事前に把握し、自治体側に伝えておくことなどを提案しています。米田雅子代表幹事は「3密を避けるには、公的避難所以外に自分の避難先を見つけておくことが大事だ。分散避難を心掛けてほしい」と強調しています。
 現実に対応を迫られた自治体もあります。熊本県美里町は今月16日に局地的大雨に見舞われ、町内4カ所で避難所を開設しました。町では入り口での検温や健康状態の確認、37度5分以上の発熱がある人を別室に誘導することを決めたほか、間仕切りの準備などを進め、住民には車中泊の検討も呼び掛けました。美里町の防災担当者は、「今回、幸いにも避難者はゼロだったが、大規模災害で避難者が殺到した場合、入場時の検温や問診は可能だろうか」と語りっています。

 一方、昨年の台風15、19号で甚大な被害が出た千葉県南房総市は、4月20日、市の避難所運営マニュアルに新型コロナへの対応を追加しました。
 新たなマニュアルでは学校の避難所について、まず教室で避難者を受け入れ、1教室に10人以上の滞在を不可としました。体育館を開放する際もスペースは1人当たり3平方メートル、隣の家族との距離は2メートルは確保し、避難者同士が対面にならないよう配慮することなどを記しました。市消防防災係の宇山尚希さんは「昨年の台風では学校に最大300人を収容できたが、新型コロナの対応では100〜150人が限界」とした上で、「市民には『難を避ける』意味でも、感染に不安があれば安全な自宅のほか、親戚・知人宅へ分散避難することも選択肢だと周知したい」と話しています。

 阪神・淡路大震災や東日本大震災をはじめ、過去の避難所でもインフルエンザなどの流行がありました。
 内閣府などは4月、自治体に対し、感染症下の災害では避難者の密集を避ける観点から、従来よりも多くの避難所を設置する必要があるとの通知を出しました。現場では症状がある人の専用スペースが確保できていなかったり、マスクや消毒液の備蓄が進んでいないのが実態です。
 27日に閣議決定した2020年度第2次補正予算案では、床に寝ないことでウイルスの吸入防止に効果がある段ボールベッドや、室内を区切るパーティションの備蓄強化、地方創生臨時交付金の活用などが盛り込まれました。今回の新型コロナの流行が、従来から環境の悪さが指摘されていた日本の避難所を、大きく転換する契機とすべきです。

 5月28日、公明党の新たな防災・減災・復興政策検討委員会(委員長=石井啓一幹事長代行)と復興・防災部会(部会長=浜田昌良参院議員)は、出水期に備え、新型コロナウイルスの感染リスクに対応した避難所運営のあり方について、内閣府と意見交換しました。

 内閣府側は、マスクや段ボールベッドなどの物資や資材を避難所に備蓄する際にかかる経費について、「地方創生臨時交付金」を活用できるとの通知を各都道府県に発出したことを報告。今年4月以降に自治体がホテル・旅館などの民間施設を借り上げて、避難所を設置・管理する事業を行った場合も同交付金の活用が可能であると説明しました。
 また、同ウイルス対策に配慮した避難所運営訓練の指針や、避難所での感染予防に関する具体的な助言を取りまとめ、全国の自治体に近く通知を出す予定だと説明しました。

 防災減災・災害復興に関わる58学会のネットワーク「防災学術連携体」が、5月1日発表したメッセージです。防災に関わる多分野の学会が、日本学術会議を要として集まり、学会の連携を進め、緊急事態時に学会間の緊密な連絡がとれるよう備えています。

市民への緊急メッセージ 「感染症と自然災害の複合災害に備えて下さい」
(防災学術連携体幹事会:2020/5/1)
 新型コロナウィルスの感染について予断を許さない状況が続いています。この感染症への対策を進めつつ、自然災害の発生による複合災害にも警戒が必要です。本格的な雨季を迎える前に、災害時の心構えを市民の皆様にお伝えいたします。
是非、ご一読いただき、複合災害の発生に備えて下さい。

1、感染症と自然災害の複合災害のリスクが高まっています
・新型コロナウィルスの感染拡大は日本全国、全世界に及んでいます。近年毎年のように起こっている自然災害が、今年も日本のどこかで起きれば、その地域は感染症と自然災害による複合災害に襲われることになります。これが現実になると、オーバーシュート(医療許容量を超える感染者の爆発的増加)の可能性が高くなるなど、極めて難しい状況になります。
・複合災害の危険性を軽減するために、あなたのまちのハザードマップや地域防災計画などを参考にして、地震・火山災害、河川の氾濫や土砂災害などの危険性と避難の必要性について、今のうちに自ら確認して下さい。
・特に、自然災害に見舞われた地域では、ウィルス感染の爆発的拡大を防ぐため、被災者や自主防災組織、ボランティア、自治体職員、医療・福祉関係者などへの十分な配慮が求められます。高齢者や体の不自由な方への支援も必須です。

2、感染リスクを考慮した避難が必要です
・災害発生時には公的避難所が開設されますが、ウィルス感染のリスクが高い現在、従来とは避難の方法を変えなければなりません。
・災害発生時には、公的避難所のウィルス感染対策をとって下さい。避難所の数を増やし、学校では体育館だけでなく教室も使い、避難者間のスペースを確保し、ついたてを設置する、消毒液などの備品を整備するなどの対応が必要となります。さらに感染者、感染の疑いのある人がいる場合には、建物を分けるなど隔離のための対策も必要です。政府および都道府県・市町村の関係者は、連携して準備して下さい。住民の方はこれに協力して下さい。
・避難が必要になる地域の方は、近くの避難場所をあらかじめ決めておきましょう。必ずしも公的避難所である必要はありません。より安全な近くの親戚や知人の家などを自主避難先としてお願いしておきましょう。また、近隣の方で相談して、その地区の頑丈なビルの上層階を避難場所とすることも有効です。
・自宅で居住が継続できる場合は、自宅避難をしましょう。その場合、食料や水などを備蓄しておく必要があります。ただし、自宅避難が可能かどうかは、災害の種類や規模によって異なります。
・災害時の感染防止対策について、自主防災組織や町内会で相談しておきましょう。
・避難が必要になる地域では、自主防災組織や町内会が、公的避難所を利用する予定の方を把握し、その人数と情報を、予め市町村に伝えておくことが「3密」を避けるために重要です。

3、地震・火山災害との複合災害に備えましょう
・日本列島は4つのプレートの衝突部にあり、世界の地震の10%、世界の活火山の7%が日本に集中しています。今までのように、大地震は突然襲ってくることを忘れないで下さい。
・地震・津波、火山噴火などによる災害が発生した場合も想定し、複合災害への備えをこれまで以上に進めておく必要があります。身近なことでは、地震の揺れで家具が転倒しないように壁に固定する、防災用の備品を確認する、津波に対する避難路・避難先を確認するなど、これまで指摘されている防災対策のうち可能なものから少しずつでも進めて下さい。

4、気象災害との複合災害に備えましょう
・5月の大型連休明けには沖縄が梅雨入りの時期を迎え、その後、夏から秋にかけて大雨・猛暑・台風などによる気象災害が全国的に多発する季節になリます。
・地球温暖化による気候変動の顕在化に伴い、わが国では豪雨の頻度や強度が長期的に増大する傾向にあります。一昨年の西日本豪雨(平成30年7月豪雨)や昨年の東日本台風(台風19号)など、近年多くの地域が広域豪雨による甚大な水害、土砂災害に見舞われています。今年の夏から秋にかけても気象災害の発生に備えなければなりません。最新の気象情報や自治体などから発表される避難情報を常に確認して下さい。
・防災用の備品を確認する、洪水氾濫や土砂災害に対する避難路・避難先を確認するなど、これまで指摘されている防災対策のうち可能なものから少しずつでも進めて下さい。 ・気象災害で避難勧告・避難指示が出された場合には、命を守るため、あらかじめ考えていた場所に、躊躇なく避難して下さい。

5、熱中症への対策も必要です
・気象庁からこの夏は平年より気温が高くなるという予報が出されており、梅雨明け後は熱中症対策が必要となります。熱中症により基礎体力が衰えると、ウィルス感染者の重症化のリスクが高まります。暑さに負けないように、健康維持に心がけるとともに、扇風機や空調設備の整備もできる範囲で早い時期に準備しておきましょう。
現在、市民および医療・行政関係の皆様は、感染拡大の防止に精一杯のご努力をされていることと思います。加えて、現実に複合災害発生の危機が差し迫っています。被害軽減のため、できることから備えを始めて下さい。