
◆「マイクロチップが埋め込まれる」「不妊になるようだ」
新型コロナウイルスワクチンの国内での総接種回数が高齢者を中心に1億回を超え、今後の焦点は若い世代の接種率をどう高めていくかに移っています。
特に、この世代が目にする機会の多い、ツイッターなどのSNSでは接種をためらうことにつながるような多くのデマが飛び交っています。
どう対応すればいいのか。情報の真偽を客観的に検証する「ファクトチェック」の普及に取り組むジャーナリストの古田大輔氏(認定NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ理事)のインタビュー記事(公明新聞2021/8/14付け)より、そのポイントを整理します。
■金もうけ、社会的優位、愉快犯…/流す側には意図
SNSでよく見られるワクチンデマの典型は、「ワクチンを打つとマイクロチップを埋め込まれる」「ワクチンで遺伝子が操作される」などです。ワクチンがいかに悪意を持って作られた危険な物かという内容が多くなっています。ただし、国内において、これら荒唐無稽なデマの影響は、海外で危惧されているほど大きくありません。日本の教育水準の高さなどが寄与しているからです。
一方、根強いのが不妊に関するデマです。「ワクチンで不妊になるようだ」などと語られる。この「……ようだ」といった微妙な表現が厄介です。素人目には真偽を確かめづらい。人々の心の中にある、少しの懸念や恐れともつながりやすい。古田氏は、それを「恐怖の共感」と呼んでいます。デマの拡散は、不特定多数のインターネットの世界にとどまらず、口コミを通じて身近な人へも広がっています。
よく知られた言葉に「フェイクニュース(虚偽情報)」がありまが、情報を扱う専門家の間ではもう、別の言葉が主流となっています。それが「ミスインフォメーション(意図がない誤情報)」「ディスインフォメーション(意図がある偽情報)」「マルインフォメーション(意図があり、特定の対象への明らかな攻撃的意志がある不正情報)」の3つです。
この3つの中で、デマはディスインフォメーションやマルインフォメーションに該当します。つまりデマを流す側に意図があるということです。しかも、デマを作った人は「金もうけ」で、拡散する人は「事実と信じ込んでの正義感」や「愉快犯」といったように、制作者と拡散者で意図が異なることもあります。
こうした意図をあらかじめ知っておくことが、デマへの予防線となります。

■ネットは少数意見も大きく拡散できる
また、ネットの特性として、少数派の意見であっても、拡散を繰り返すことで目立たせることができる点を見逃せません。実際、英米の非営利団体「反デジタルヘイトセンター(CCDH)」は、今年3月の報告書で、数億件に達するSNS上のワクチンに関する虚偽情報の65%は、たった12人が発信源だったことを明らかにしています。
■受け手のニーズ敏感に/政治は信頼情報増やせ
デマの影響力を抑えるには。 分からない事や気になる事があれば、今はネットで検索することが重要です。グーグル、ヤフーのほか、ツイッターやインスタグラム、TikTok(ティックトック)など、情報を入手する手段が多様化しています。 問題は、信頼できる情報を求めて探しても見つからない場合です。これは「データの赤字」と呼ばれます。マスメディアや政治の側は、正しい情報を発信するだけでは不十分です。受け手のニーズ(需要)にもっと敏感になり、それに応える発信を増やす必要があります。そうしなければ、デマに負けてしまいます。
今は便利なツール(手段)もあります。例えば、無料の「グーグルトレンド」は、ある単語が特定の期間・場所でどれだけグーグルを通じて検索されているか、その傾向をグラフで確認できます。「ワクチン」が関心の高い言葉であることが一目瞭然です。また、それが「副反応」「予約」などと一緒に検索されていることも分かります。
ワクチンの接種率を上げるためには、問題をデマだけに矮小化しないこと大事です。正確な情報であっても、文脈がつながっていないとミスリード(誤った方向に導くこと)が起こり得えます。特に副反応については、「ワクチン接種後に○人死亡」のように因果関係を曖昧にした科学的な文脈抜きの報道は、結果的にワクチンへの恐怖感を強く起こしてしまいます。
【参考資料】米CDC、妊婦のワクチン接種を強く推奨 “安全性 懸念みられず”
(NHK2021年8月12日)
アメリカCDC=疾病対策センターは、妊娠中の女性が新型コロナウイルスのワクチンを接種することによる安全性に懸念はみられないとする新たな分析結果を公表し、妊娠中の女性にも接種を強く推奨する声明を出しました。
CDCは11日、ファイザーとビオンテックが共同開発したワクチンと、モデルナが開発したいわゆる「mRNAワクチン」について、妊娠中の女性への安全性に関する分析結果を公表しました。
それによりますと、妊娠20週までに1回以上接種したおよそ2500人の女性のうち、流産した割合はおよそ13%でした。
CDCによりますと、一般的な流産の割合は11%から16%だということで「接種した人で流産のリスクが高まることはなかった」として、安全性に懸念はみられないと結論づけました。
CDCのワレンスキー所長は「感染力の強いデルタ株の拡大で、ワクチンを接種していない妊婦の重症化がみられる中、これまで以上に接種が急がれる」とする声明を出し、利益がリスクを上回るとして、接種を強く推奨しました。
CDCはこれまで、妊婦は希望すれば接種を受けられるとしていましたが、今回、より強く推奨することにした形です。CDCによりますと、アメリカでは先月26日の時点で、妊娠中の女性およそ14万人がワクチンを接種しています。
【参考資料】「反ワクチン」が産業に 収益40億円、雇用も生み出す―NGO(時事通信2021年8月12日)
米英が拠点のNGO「デジタルヘイト対抗センター(CCDH)」の調査によると、インターネット交流サイト(SNS)上で新型コロナウイルスワクチンに反対し誤情報を広げる中心的な12人は少なくとも計3600万ドル(約40億円)の収益を上げている。雇用も生み、産業の体を成してきた。こうした現象が、根強い米国内のワクチン忌避を支えている。
最も収益を上げたのはジョゼフ・マーコラ医師で721万ドル(約8億円)。自らのサイトで「ワクチンが遺伝システムを破壊する」などと訴えている。寄付した先の団体がSNS上でこうした主張を共有し読者を広げてきた。ケネディ元大統領のおいロバート・F・ケネディ・ジュニア氏も反ワクチンの活動家で、294万ドル(約3億2000万円)も稼いだ。
この12人は、SNS上で影響力を持つ代表的な「インフルエンサー」だ。反ワクチン投稿の3分の2をこの12人が作成していると考えられている。フォロワーは計6200万人に上り、計266人の雇用も生んだ。さらに巨大IT企業にも広告収入など11億ドル(約1200億円)の経済価値をもたらしたと計算されている。
CCDHは、SNSが発信や動員、資金調達の戦略拠点になっていると指摘する。CCDHのイムラン・アーメド最高経営責任者(CEO)は「SNS企業が危険なデマの拡散に加担し利益を得ている。その代償は社会が払わされることになる」と警告し、誤情報の発信源を断つよう求めた。