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 子宮頸がんの主な原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)接種を個別に呼び掛ける「積極的勧奨」が今月から約9年ぶりに再開されました。
 子宮の入り口付近にできる子宮頸がんは、20〜30歳代の女性が発症するがんの多くを占め、国内では年間約1万1000人がかかり、約2800人が亡くなっています。
 HPVは、多くの女性が一生に一度は感染するとされるウイルス。約9割の確率で自然に排除されますが、一部の人は子宮頸部などで感染が長期化し、がん化します。主に性交渉で感染するため、若い世代のHPVワクチン接種が望ましいとされています。
 HPVワクチンは、世界保健機関(WHO)が接種を推奨しており、100カ国以上で公的な予防接種として打たれています。
 日本では2013年4月から公費で賄う定期接種となり、小学6年生から高校1年生までの女子を対象に、市区町村が実施主体となって原則無料で受けられるようになりました。
 ところが、接種後に全身の痛みなど副反応と疑われる報告が相次いだため、定期接種のまま、厚労省は同年6月から適切な情報が提供できるまで積極的な接種勧奨を中止してしまいました。
 そのため、接種率は大幅に低下し、19年度に接種した人は対象の1.9%と推計されています。
 昨年11月、厚労省専門部会で最新の知見を踏まえ、「安全性について特段の懸念が認められない」「接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回る」と判断されたことから、厚労省が正式に再開を決めましまた。
厚生労働省の子宮頸がんワクチンに関するリーフレット(詳細版)
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000901220.pdf

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 定期接種で受けられるHPVワクチンは現在、「2価」と「4価」の2種類。どちらも半年から1年の間に、同一ワクチンを原則3回接種します。
 対象者には市区町村から案内が順次送付されます。併せて、勧奨差し控えで接種機会を逃した女性には、希望すれば公費で接種できる「キャッチアップ接種」も行われます。
 キャッチアップ接種の対象は、勧奨差し控えの間に対象年齢を過ぎた1997年4月2日〜2006年4月1日までに生まれた現在16歳〜24歳の女性で、合計3回の接種を受けていないことが条件です。今月から25年3月までの3年間、無料で接種できます。公費補助がない場合、3回の接種で4万〜5万円かかりますが、無償となります。
 厚労省によると、HPVワクチンは16歳頃までの接種が最も効果が高いものの、それ以上の年齢でも有効性があり「明らかな安全性の懸念は示されていない」としています。

 HPVワクチン接種後に生じた体の痛みなど多様な症状を巡っては、厚労省専門部会が17年4月に、厚労科学研究の全国疫学調査の結果を踏まえ、接種歴のない人にも同様の症状がある人が一定数いると確認しています。
 さらに専門部会は11月、接種との「因果関係に関する新しい質の高いエビデンス(科学的根拠)は報告されていない」と判断。その上で12月、接種後に生じた症状に苦しむ人に対して、寄り添った支援を引き続き行うべきだとしました。
 国は適切な診療を提供するため、各都道府県に1カ所以上の協力医療機関を整備。生活面の支援強化に向けて都道府県などに相談窓口も設けました。

 子宮頸がん対策について公明党は、女性の命と健康を守るため、一貫して取り組んできた。検診の無料化や、ワクチンの早期承認を主張し具体化。ワクチン承認後は、地方議員の推進で接種への公費助成が各自治体に広がり、13年度には定期接種化が実現しました。
 今回のキャッチアップ接種についても、公平な接種機会を確保する観点から、確実な実施を求めていました。

 HPVワクチンの安全性については、あくまで科学的・客観的に評価されるべきものです。今回、最新のエビデンスで積極的勧奨が再開されることとなりました。
 ワクチンの接種は、常に副反応などのリスクと、がん軽減のベネフィット(効果)の程度の差で判断されるものです。日本では毎年多くの人が罹患し、亡くなっています。この現状の改善につながると期待しています。
 一方、ワクチン接種した1万人当たり5人に重篤な副反応があるとの報告があります。健康被害者の救済、寄り添った支援を進めていくことは必須です。
 重篤な副反応に苦しむ方々の一番の望みは、治療して健康な身体に戻ることであり、国として子宮頸がんワクチンの副反応のメカニズム、治療方法の研究を進めていくことが必要です。

HPVワクチンの海外での事例
 海外での事例をもとに、HPVワクチンの効果や今後の課題を見てみたいと思います。
 海外の接種状況を見てみると、ワクチン接種率が高い国は、ノルウェー91%、カナダ83%、イギリス82%、オーストラリア79%、韓国52%となっています。9〜14歳の女性の多くがワクチンを接種しています。
 最近では、女性だけでなく男性にもHPVワクチンの接種が勧められています。
 HPVの感染を予防することで、中咽頭がん(のどのがん)、肛門がんが予防できるのと、パートナーの女性への感染を減らすことができるためです。
 男性のHPVワクチン接種は、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、イギリス、ドイツなどで始まっています。

 ワクチンの効果は、スウェーデンの報告によると、16歳までにHPVワクチンを打った女性では子宮頸がんのリスクが88%減ったとされています。
 また、イギリスの報告では、12〜13歳でHPVワクチンを接種した学年では87%、14〜16歳では62%、16〜18歳では34%リスクが減ったというものがあります。イギリスでは2008年からHPVワクチンの接種が推奨され、2019年までに448人の子宮頸がん患者さんが減ったと推定されています。
 オーストラリアでは2007年からHPVワクチンの接種が推奨されており、女性の78.6%、男性の72.9%がワクチンを接種しています。今後20年でオーストラリアでは子宮頸がんが撲滅されると予測されています。

 HPVは性行為で移るウイルスのため、女性だけではなく男性も含めて多くの若い人たちが、ワクチンを接種することで、一人ひとりのウイルスに感染するリスクを大きく減らすことができるためです。
 また、社会の多くの人がHPVワクチンを打って接種率を高くすることで、HPVに感染している人の数を減らすことができます。その結果としてHPVワクチンを打っていない人もHPVの感染から守ることができます。人口の一定割合以上の人が免疫を持つと、他の人も感染しにくくなる「集団免疫」を得ることができます。

男性へのHPVワクチン接種
 残念ながら現在、日本では男性に対するHPVワクチンの公費助成はなく、全額自己負担となります。費用は1回18,000円、3回の接種が必要です。
 接種年齢は、女性と同様、性交渉を行う前の段階で接種することが望ましく、12〜13歳頃が最も適した年齢といわれています。