常総水害
 地球温暖化の影響で気候が凶暴化し、毎年のように大規模な水害が発生しています。“想定外の災害”が日常化しているといわれます。
 茨城県では、2015年9月に「関東・東北豪雨災害」が発生しました。鬼怒川の堤防が決壊し大きな被害だ発生しました。多くの住民は、小貝川が以前、大洪水で決壊した記憶はあったものの、鬼怒川が決壊することは、まさに“想定外”でした。
 そのために逃げ遅れてしまった方たちが多くいましたので、ヘリコプターや自衛隊のボートなどを使って、前例のないほどの大規模な救助活動が行われました。
 その災害の経験をもとに、今後を見据えて、国と県、そして鬼怒川下流域の7市町で、ハードとソフトを一体化させた治水対策を進める「鬼怒川緊急対策プロジェクト」が立ち上げられました。ハード面では、堤防のかさ上げや拡幅、河道の掘削などを行い、豪雨が発生しても、同様の被害を出さないようにするための対策が講じられました。このプロジェクトは2021年9月に完成しました。
 ソフト面では、流域地域から「マイ・タイムライン」を実施し始めました。マイ・タイムラインとは、住民一人ひとりの家族構成や生活環境にあわせて、いつ、誰が、何をするのかという“自分自身の防災行動計画”のことです。これが、災害時に逃げ遅れないための備えとなります。
 平成30年の“西日本豪雨”や令和元年の“東日本台風”、令和2年の“熊本豪雨”など、近年の豪雨災害では、いくつもの河川が同時多発的に氾濫し、堤防が相次いで決壊しています。特に、“東日本台風“では、久慈川水系、那珂川水系の本川、支流が氾濫し、大きな被害が発生しました。
 こうした災害を教訓として、地域の上流から下流までの特徴に応じた施策を切れ目なく実施する「流域治水プロジェクト」が今、進められています。
 この「流域治水」の全国展開は公明党の政策そのものです。そして、鬼怒川水害の1ヶ月後に就任して、災害復旧の指揮を執った石井啓一国交大臣(現公明党事長)のリーダーシップが大きかったといえます。
令和元年東日本台風
 一方、茨城県の取り組みを見てみると、“流域治水”の考え方を本格的に議会で取り上げたのは、平成26年6月議会での公明党の高崎進議員の一般質問でした。まさに先見性の高い質問でした。
 高崎議員は、兵庫県の流域治水の先進事例を視察し、「“流す”対策に加え、雨水を一時的に貯留、地下に浸透させるとした“ためる”対策、さらに、浸水してもその被害を軽減する“備える”対策」による総合的な治水対策を提唱しました。その後、平成27年、28年、29年と繰り返し“流域治水”の重要性を繰り返し議会で主張し、特に平成28年には、「総合的治水条例」の制定を県に提案しました。

茨城県議会での公明党・高崎進議員の提案
平成26年第2回定例県議会
2014/6/14

 総合治水対策の取り組みについて知事にお伺いをいたします。
 先日、兵庫県を訪れ、先進的な治水対策の取り組みを調査してまいりました。
 兵庫県では、これまでの治水は、雨水を河川に集めて、早く安全に流すことを基本とし、河川における対策としては、ダム、堤防等の設置、河道の拡幅等の整備を進め、下水道における対策としては、雨水を排水するための管渠等の整備を進めることにより行われてきました。
 しかし、河川の上流部周辺では、開発が進行して雨水が流出しやすくなり、一方で、河川の下流部周辺では、都市化が進行しているため大きな被害が生じやすくなっております。近年では、台風に伴う大雨のみならず、局地的に集中する大雨が多発することで、従来よりも浸水による被害が拡大をしております。
 こうした状況のもと、これまでの治水対策に加え、地域における特性及び課題に着目し、流域全体で雨水を一時的に貯留し、または地下に浸透させる対策、さらに浸水が発生した場所における被害の軽減を図る対策を効果的に組み合わせて実施する総合治水の必要性が高まっていることから、総合治水条例を制定しました。
 そして、これまでの河川、下水道の整備による「流す」対策に加え、雨水を一時的に貯留、地下に浸透させるとした「ためる」対策、さらに、浸水してもその被害を軽減する「備える」ことの減災対策を効果的に組み合わせた総合的な治水対策に取り組んでおります。
 具体的な兵庫県の総合治水対策の内容ですが、河川や流域下水道の整備及び維持管理は従来どおりに行いますが、調整池の設置及び保全については、開発行為をしようとする開発者は、一部の開発行為を除きますが、開発行為の規模が1ヘクタール以上、かつ周辺地域に浸水被害を発生する可能性が高まると認められる開発行為の場合は、開発の内容を知事に届け、重要調整池を設置しなければならず、違反時には命令、罰則を科す仕組みになっております。
 さらに、土地、建物の所有者などは、新たに雨水貯留浸透機能を備え維持することが求められています。例えば学校の校庭や公園などの広い土地を利用した施設を一時的に雨水貯留浸透のための施設として活用します。また、庁舎や病院などの大規模な建物については雨水貯留整備の配置を、住宅や店舗などの小規模な建物については簡易な雨水貯水槽の設置を求めています。
 田んぼやため池については、雨水を一時的に貯留することにより、河川への流出をおくらせることで、河川の急激な増水を抑え、下流部の洪水被害を軽減する取り組みです。
 田んぼの貯留とは、田んぼに雨水貯留用の堰板を設置する、いわゆる田んぼダムの取り組みであります。兵庫県内の平成24年産の全水稲作付面積約4万ヘクタールでこのことを実施すれば、約3,8000万トンの一時貯留が可能で、その貯留量は、兵庫県最大の農業用ダム、呑吐ダムの2.1倍の貯水量に相当すると試算されていました。
 また、ため池の貯留とは、台風などの豪雨の直前にため池の水位を下げたり、一定の期間を定めて常に水位を下げるなどして雨水の貯留量を確保する取り組みであります。
 兵庫県では、今年度から創設された日本型直接支払いをインセンティブとして、田んぼ、ため池を活用した流域対策の集落への普及啓発を推進するとしていました。
 河川法における河川整備計画では、治水、利水、環境を総合的に考えて作成されています。本県の河川整備計画における治水の取り組みでは、10年に一度程度の発生が想定される降雨に対応できる河川改修を基本とされています。しかし、近年では、局地的に集中する大雨が多発し、従来よりも浸水による被害が拡大をしております。
 雨水を河川に集めて早く安全に流すことは基本であり、河川整備などを推進することは当然のことと考えておりますが、「流す」という従来の考えに、「ためる」という新たな発想を加えた治水対策も必要であると考えております。
 本県が取り組んできたこれまでの治水対策を検証するとともに、地域における特性や課題に着目した総合治水対策を検討すべき時に来ていると考えますが、知事の御所見をお伺いをいたします。