12月22日、政府は脱炭素化に向けた戦略を決める「GX=グリーントランスフォーメーション実行会議」を総理大臣官邸で開き、ロシアによるウクライナ侵攻を受けてエネルギーの安定供給への対応と脱炭素社会の実現を両立させるための政府の基本方針を了承しました。
特に、原子力政策について大きな転換が図られることになりました。原子力発電は、実質的に現状の上限の60年を超える原発の長期運転を認めることや、これまで想定してこなかった次世代型の原子炉の開発・建設に取り組むといった内容が盛り込まれました。
3・11東日本大震災の福島第1原発事故を受けて政府が示してきた原子力政策の方向性は、大きく転換することになります。
原子力政策の方向性は大きく転換ポイントは、今回の基本方針では、現在ある原発について、安全最優先で再稼働を進めることに加えて、最長60年と法律で定められている運転期間から、原子力規制委員会の審査などで原発が停止した期間を除外し、その分の追加的な延長を認めて実質的に60年を超えた運転ができるようにするとしています。
また、政府は原発事故のあとことしの夏まで、原発の新設や増設、建て替えを「想定していない」と繰り返し説明してきましたが、今回、新しい安全対策などの技術を反映した次世代型の原子炉の開発・建設について「まずは廃炉となった原発の建て替えを対象に具体化を進める」としました。
ロシアによるウクライナ侵攻を受けた燃料価格の高騰を背景に、電気料金の平均単価はことし8月までの1年間で見ると家庭用でおよそ2割、産業用でおよそ4割上昇しています。
こうしたなか、政府はすでに再稼働した10基に加え、2023年夏以降、原子力規制委員会の審査に合格した7基の再稼働を目指すとしていて、仮に17基全てを動かした場合、海外から調達するLNG=液化天然ガス、およそ1兆6000億円分を輸入せずに済むと試算しています。
現在、国内には33基の原子力発電所があり、このうち、原子力規制委員会の審査に合格し再稼働したのは10基です。
2021年に策定されたエネルギー基本計画では、2030年時点で電源構成に占める原発の割合は20%から22%程度を目指すとしていますが、これをまかなうにはおおむね30基前後が必要です。
このため政府は、すでに審査に合格している5原発7基について来年夏以降の再稼働を目指すほか、審査中の原発や審査を申請していなかったり建設中だったりするあわせて19基についても稼働できるよう、環境整備を進めるとしています。
それでも、33基の原発のうち、半数を超える17基はすでに運転開始から30年以上が経過し、40年を超える原発も4基あるため、仮に、建設中のものも含めすべての原発が最長の60年まで運転しても、2030年代から設備容量は減り始め、2040年代からは大幅に減少していくことになり、中長期的には2050年の実現を目指す脱炭素社会への貢献は限定的になります。
今回の基本方針では、運転期間から審査などで停止した期間を除外し、その分の追加的な延長を認めるとしました。
経団連の試算によりますと、原発事故のあと審査などで停止していたすべての原発が、その期間を60年に追加して運転した場合、2050年時点でも現在とほぼ同じ水準の31基が残る見通しだとしています。
今回の基本方針では、廃炉となった原発の立て替えを念頭に、次世代型の原子炉の開発や建設を進めるとしました。
国内では、福島第一原発の事故前、54基の原発がありましたが、事故後、強化された規制基準への対応などを背景に、全国で21基の廃炉が決まりました。
東海第2原発の再稼働は認められない
こうした政府の方針転換について、東海第2原発の地元に住む者としては、全く賛同できません。日本のエネルギー政策が、原発抜きにしては語れない現実は認めざるを得ませんが、原発自体の安全性の確保や重大事故発生時の住民避難体制の不備などを考慮すると、やはり東海第2原発は廃炉という選択がふさわしいと主張いたします。
昨年(2021年)3月、水戸地裁で言い渡された東海第2原発運転差し止め訴訟判決では、原発で事故が起きた際に住民を避難させるための避難計画や体制が整えられていないことから、「日本原電は、東海第2発電所の原子炉を運転してはならない」と結論づけました。
判決は、IAEAの「深層防護」の視点をもとに、避難計画等の第5の防護レべルについては、東海第2原発の原子力災害対策重点区域であるPAZおよびUPZ(おおむね半径30キロ)内の住民は94万人余に及び、原子力災害対策指針が定める防護措置が実現可能な避難計画およびこれを実行し得る体制が整えられているというにはほど遠い状態であり、防災体制は極めて不十分であるといわざるを得ず、PAZおよびUPZ内の住民である原告の安全性に欠けるところがあると認めらると、断じています。
東海第二原発は、概ね30km圏内に94万人が住む、人口密集地に存在しています。これだけの人口密集地での原発立地は世界に類例がありません。東京まで直線距離で110キロという、いわば首都圏の喉仏に立地しています。
そのうえ、東海第二原発は稼働から40年超の「老朽原発」でもあります。福島第1原発事故を受けた法改正で、原発の運転期間は原則40年とされました。2018年11月、東海第二原発は運転開始40年の節目を迎えました。日本原電は、「東海第2発電所の運転期間延長認可申請」を原子力規制委員会に提出し、最長20年間の運転延長が認められました。日本原電は、2022年末を目途に安全対策工事を終え、早い段階での再稼働を目指しています。
2011年3月11日の東日本大震災により原子炉は自動停止。外部電源も停止したため、非常用ディーゼル発電機3台を起動して、運転に必要な電源を確保しました。しかし、津波によってディーゼル発電機用海水ポンプ1台が故障したため、残るディーゼル発電機2台で、原子炉冷却に必要な電源を賄いました。その後、外部予備電源が回復し、3月15日0時40分に原子炉水温度が100℃未満の冷温停止状態となったことが確認されました。その間は注水と、水蒸気を逃がすための弁操作の綱渡り的な繰り返しで、冷温停止までにかかった時間も通常の2倍以上であったと報告されています。
高さ6.1m(想定津波高5.7m)の防波壁に到達した津波の高さは5.4mに達しました。工事中であったため防波壁には穴が開いており、そこから侵入した海水によって、全3台の海水ポンプが浸水(その内1台は停止)し、非常用ディーゼル発電機1台が停止しました。日本原電は、「(もう少し、津波高が高かったならば)福島第一の事態になった可能性は否定できない」と述べています。
原発の立地とはどのような方法を使っても、その条件を変更することはできません。今後いくら多くの投資を行っても、そのリスクが低減するとは考えられません。
さらに、ウクライナ紛争をみても、原発が安全保障上の大きなポイントになることが、衆目の一致するところとなりました。
東海第2原発は、東京駅からの直線距離が110数キロしか離れていない原発です。
「脱原発をめざす首長会議」が、2019年に米国原子力委員会が作成した「原子炉安全研究」に基づいて、中程度の過酷事故(BWR3)が発生し、毎秒2メートルの北東の風が吹いていた場合の拡散状況をシミレーションを公表しています。それをチェルノブイリ事故後にロシア連邦が法律として定めた汚染状況と避難指示の関係(いわゆる「チェルノブイリ基準」)に当てはめてみると、「強制移住ゾーン」(赤色の地域:水戸市、石岡市など)、「移住義務があるが希望すれば居住できるゾーン」(黄色の地域:土浦市、つくば市、守谷市、取手市など)、「移住権が発生するゾーン」(緑色の地域:東京23区など)が想定されます。もし東海第二原発で中程度の過酷事故が起きた場合に、首都圏に大きな影響が出ると、警鐘が鳴らされています。