防災DXサービスマップ
 5月5日、GWの真っ最中、けたたましくスマホの緊急地震速報が鳴り響きました。石川県珠洲市での震度6強の地震を伝える速報でした。近年、日本では自然災害が頻発し、台風、地震、洪水、土砂崩れなど、多くの人々の命や財産に被害をもたらしています。
 こうした社会状況の中で、防災DX(デジタルトランスフォーメーション)を実装する必要性が高くなっています。防災DXとは、デジタル技術を活用して、災害の予測、予防、対応、復旧を効率的かつ効果的に行うことです。スマホを使った緊急地震速報も、その一例です。人工知能やビッグデータを使って、災害の発生確率や被害範囲を分析し、適切な警戒レベルや避難指示を出すことができます。また、ドローンやロボットを使って、被災地の状況把握や救助活動を支援することができます。さらに、クラウドやブロックチェーンを使って、被災者の情報や支援物資の管理を透明化し、スムーズに行うことができます。

 防災DXには、以下のようなメリットがあります。
災害情報の収集・分析・共有を効率化し、適切な判断や対応を支援します。
災害時の住民のニーズや状況を把握し、必要な支援やサービスを提供します。
災害時のコミュニケーションや協働を促進し、住民同士や行政との連携を強化します。
災害時の事業継続や復旧・復興を加速し、社会・経済の損失を最小限に抑えます。

 国では、防災DXを官民協働で推進するために、「防災DX官民共創協議会」を設置しました。防災分野におけるデータ連携等の推進を通じた住民の利便性の向上を目指し、防災分野のデータアーキテクチャの設計やデータ連携基盤の構築等の検討を行う協議会です。
 3月10日、防災分野におけるデータ連携を促進し、デジタル防災を推進するために、防災分野のデジタル技術を活用した民間事業者が開発するシステムやアプリといったサービス等の情報をまとめたWebサイト「防災DXサービスマップ」を公開しました。「防災DXサービスマップ」は、事業者から応募のあったサービスをまとめたもので(公開時点で103件のサービスを登録)、地方自治体の現場職員などが防災分野のデジタル技術を活用した民間サービスに迅速にアクセスできるようにすることが目的です。このマップは、「平時」、「切迫時」、「応急対応(+72時間)」、「復旧・復興」の4つの局面に分け、それぞれの局面で有用なサービスが掲載され、簡単に検索することができるよう工夫されています。
防災DXサービスマップ:https://bosai-dx.jp/
 特に、一般市民の多くが携帯するスマホの活用には力を入れるべきです。実際、数多くのスマホを活用したシステムが稼働しています。

■安全な避難路をスマホ表示=足立区防災アプリ
 東京都足立区では、2022年4月から、誰もが無料でダウンロードできる「足立区防災アプリ」をスタートしました。水害に備えて区内の荒川など計12カ所に設置された国土交通省のライブカメラの映像を、スマホで手軽に見られるほか、リアルタイムの水位情報も確認できます。
 このアプリは、災害時には道路や建物などの被害状況と避難所の開設状況を一つの地図上に分かりやすく表示。今いる場所から、火災現場や渋滞した道路を避けて、安全に避難所へ向かうルートも把握できます。アプリのダウンロード数は、4月1日現在で約2万4500に上っています。
 災害対応に当たる職員の負担軽減に向けても防災DXは有効。足立区はこれまで電話やファクスなど“アナログ”で行ってきた災害対策本部への連絡について、タブレット端末の活用を推進。職員間の連絡や同アプリへの情報入力が格段に速まっています。

■導入コストがメリット、確実性の高い防災情報を配信=茨城県桜川市・稲敷市
稲敷市公式アプリ 茨城県の桜川市や稲敷市では、民間事業者(クレバーラクーン社)とのシステムを導入して、緊急放送や安否確認を配信するスマホシステムを導入しています。現在多くの自治体で運用されているアナログの防災行政無線は、令和6年11月までにデジタル化が必須となっています。しかし、デジタル化には大きな予算が必要となり、また、地形等の影響で防災無線が受信しづらい地域を抱える自治体では、過大な負担が懸念されています。そこで、クレバーラクーン社は、インターネット配信の仕組みで、安価で確実な防災情報配信システムを開発しました。
 桜川市の「さくらがわ防災」アプリは、インターネットラジオの機能も組みこみ、議会中継を配信するなどの取り組みも行っています。
 稲敷市は「稲敷市公式アプリ」として、このシステムを市民に提供。防災情報だけではなく、市からのお知らせ、休日当番医の案内、ごみ収集日程の案内なども行っています。また、消防団専用のメニューも完備し、より詳細な防災地図データなどの配信も行っています。

■LINE上に会話機能を提供=兵庫県神戸市
 兵庫県神戸市は、SNS(交流サイト)のLINE上でロボットと会話する「チャットボット」の活用を試みを行っています。
 このシステムは、災害時に写真や動画、被害状況のコメントなどを住民がチャットボットに送れば、AIが災害内容を自動で分析し、その情報を地図上に示してくれるもの。住民間の災害情報の迅速な共有をめざし実証実験が進められ、5月1日現在で登録参加者は約1万5000人に達しています。
 また、神戸市内で消火や救助の活動を担う消防団員の安否確認、被災状況の共有などにも、このシステムは役立てられています。

■要支援者と支援者のマッチング=名古屋市の防災ヘルプサービス
 名古屋市は、高齢者や障害者など避難支援が必要な「避難行動要支援者」と、避難支援をする「支援者」が、災害時にスムーズに避難できる体制づくりを検討していました。そこで、人材派遣業大手「パソナ」と連携して、「防災ヘルプサービス」というデジタル技術を活用したサービスの実証実験を行っています。このサービスにより、「避難行動要支援者」と「支援者」をマッチングさせたり、個別避難計画をデジタル化したりできるようになります。

生成形AIの実装研究を急げ
 ChatGPTに代表される自然言語処理技術を用いたチャットボットの活用を、早急に研究すべきです。災害時には、住民からの質問に自動的に回答したり、必要な情報やアドバイスを提供したりすることができます。また、住民の感情や心理状態を分析し、適切な対話を行うことで、精神的な支援も行うことが可能になります。先に紹介した実例の中でも、生成系AIを組みこむことは可能です。