常陸太田市の広報紙
 茨城新聞の5月21日付けに、常陸太田市の主婦から興味深い投稿が寄せられていました。この主婦が触れたのは、市の広報紙で「初めてのお誕生日」と題する一歳児を紹介するコーナー。このコーナーで、男女問わず子どもたちの呼び方が「さん」になったというのです。そのため、性別がわからないことに「ちょっとイライラする」とのことでした。
 ちょっと気になったので、他の自治体の広報紙も見てみました。投稿があった常陸太田市をはじめ、近隣の東海村、土浦市の広報紙を比べてみると、確かに子どもたちの呼び方は「さん」か「ちゃん」で一貫していて、性別の区別はないようです。そして、子どもたちを紹介するコーナーに応募する際の要領を見てみると、氏名や誕生日、住所などは書くようになっていますが、そもそも性別を書く欄はありません。
東海村の広報紙
 最近の日本では、公的な出版物や広報物に性別を書かないことが一般的になってきました。性別を明記しないことで、人々が自分自身を自由に表現でき、自分の能力や個性が尊重されるようになるという意義があります。また、それはLGBTQ+コミュニティに対する配慮でもあります。彼らの自己認識の性別が公式な文書に反映されないことで、ストレスや不快感を感じる可能性があるからです。
 ただ、この主婦のように、子どもの性別がわからないことに戸惑う人もいることは事実です。男の子か女の子かを知りたいというのは、自然な好奇心の一部かもしれません。しかし、公的な場では性別を明示しないことで、全ての人々が自分自身を表現し、認識する自由を尊重することが大事だと思います。

土浦市の広報紙
 「くん」「ちゃん」といった子どもの呼び方についても考えてみましょう。NHK放送用語委員会の考え方によれば、「さん」は基本的な呼び方として推奨されています。それは「さん」が公平で中立的な呼び方だからです。だけど、その一方で、「ちゃん」も全く否定されているわけではありません。特に小さな子どもに対しては、「ちゃん」が親しみや愛情を表す呼び方として認められています。
 大切なのは、どんな呼び方を使うかよりも、それを使う背後にある意図や考え方を理解し、相手を尊重することです。私たちが言葉を通じて人々とコミュニケーションをとるとき、その基本原則がここにあると思います。この考え方は、呼び方の選択においても特に重要です。

 言葉は、私たちの思考や価値観を反映します。そして、私たちがどのように言葉を使うかは、私たちが世界をどう見て、他人をどう扱うかに直結します。だから、「さん」か「ちゃん」か「くん」か、そんな呼び方の選択にこそ、私たちが子どもたちをどう見て、どう扱うべきか、という大きな問いが含まれていると思います。
 その意味では、広報紙の一角で性別を問わず「さん」(または「ちゃん」)を使うという試みは、新しい時代の風を感じさせます。時には戸惑いもあるかもしれませんが、その中で社会全体がより理解し合える方向に進んでいくことが大切なのではないでしょうか。