取手市の内水氾濫実績マップの一部
 6月2日、茨城県の取手市双葉地区は、小貝川や牛久沼、水田や農業用水路などに囲まれた地域で、台風2号による大雨が原因で、約1100世帯中約600世帯が床上・床下浸水という被害を受けました。双葉地区へと流れ込んだ水量が、水路へ排水するポンプの能力を上回り、いわゆる「内水氾濫」が発生したと考えられています。この地区は県内で唯一、災害救助法が適用されました。
 この地区には2つのポンプ場が設置され、発生時には5基のポンプが正常に稼働していましたが、それでも排水しきれなかったのです。取手市では、6月12日、排水のインフラ整備について県などに対し要望を出しました。
 被災地では、水に漬かった畳や家具の運び出し、災害ごみの搬出などの作業が徐々に進んでいますが、被災者の生活再建にはまだ時間が必要となりそうです。

外水氾濫と内水氾濫
まだまだ手薄な内水氾濫への対応
 内水氾濫とは、下水道などの排水が追いつかなかったり、河川の水位が上昇して下水道から排水できずに水があふれる災害のことを指します。気候変動の影響などで局地的な大雨が増え、内水氾濫による浸水被害が各地で頻発しています。内水氾濫が発生する背景には、都市化の進展があるといわれています。市街化に伴い、森林や農地、水田などが減少し、住宅や駐車場、アスファルトの道路が増えると、雨水を地下に浸透させるための土地面積が縮小し、短時間に多量の雨水が下水道に流れ込み、排水できずに浸水にいたります。
 また、局地的な豪雨などで川の水位が上がり、下流での外水氾濫を防ぐために市街地の水を川へ放流できず、浸水するケースもあります。
地元自治会役員の案内で被災地を調査
 河川の水が堤防を越えたり、堤防決壊で発生する外水氾濫に比べ、これまで対策が手薄とされてきました。政府は、雨水をためる貯留施設の整備などのハード対策を推進する一方、迅速な避難に向け自治体に作成を義務付けた「内水浸水想定区域図」の進捗状況を公表し、遅れている自治体への支援を強めるなど、ソフト対策にも力を入れています。
 2019年の東日本台風では、内水氾濫による浸水被害が15都県135市区町村で発生し、被害家屋は全国で約3万戸を超えました。そして、政府はこれらの教訓を生かし、全国の内水氾濫に関する対策強化に向けて、新たなガイドラインを発表しました。ガイドラインには、都市の浸水リスクマップの作成や普及、浸水予防対策の強化、既存の排水設備の改善、そして新たな排水システムの導入などが提案されています。

 茨城県の取手市双葉地区のような地方自治体では、これらの新しいガイドラインを適用し、内水氾濫のリスクを軽減するための具体的な計画を立てる必要があります。この地域のように、排水能力が不足している地域では、新しいポンプシステムの導入や既存のシステムの改善が必要となります。
 と同時に、災害の影響を受けやすい地域に住む住民への教育と情報提供も重要です。自治体は、住民が適切な防災対策を取れるように、常に最新の情報を提供し、災害時には迅速に避難できるようにする必要があります。
 一方で、これらの対策は短期間で完了するものではありません。ゆえに、被災者の支援と復興のために、長期的な視点と持続可能な計画が求められます。社会全体が一体となって、災害リスクを減らすための取り組みを進めていくことが、我々の未来をより安全で持続可能なものにする鍵となるでしょう。