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 2024年3月27日、日立市は防災会議を招集し、日立市に隣接する東海第二原発で重大な事故が起きた際の「広域避難計画」を決定しました。
 この広域避難計画では、5キロ圏内(PAZ)に住むおよそ2万3000人は、放射性物質が放出される前に福島県いわき市や田村市などに避難します。
 それ以外の30キロ圏内(UPZ)のおよそ14万人はまず屋内退避し、放射性物質が放出されて線量が一定の基準を超えた地区は、福島市や郡山市など地区ごとに定められた14の市町村に避難します。
日立市原子力災害広域避難計画
https://www.city.hitachi.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/719/2_shingi1.pdf
日立市原子力災害広域避難計画添付資料
https://www.city.hitachi.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/007/719/2_shingi2.pdf

 今回決定された日立市の広域避難計画を概括して、避難手段の確保、入院・入所者の避難体制、避難経路の問題について、3点指摘します。

避難手段(特に大型バス)確保の問題
 避難手段は自家用車を原則とし、自家用車の利用が難しい人のための大型バスは、延べ約750台必要と試算しました。しかし、これだけのバスをいかに迅速に調達できるかは、大きな課題です。県では、「バス等配車オペレーションシステム」を令和元年から開発しているとされていますが、その運用状況は明らかではありません。そもそも、道路が遮断されている県北地域にこれだけのバスを県内から調達するには高いハードルがあります。県外(特に福島県)からバスを動員する方が理にかなっていると考えられます。さらに、バスが調達できたとしても人手不足の中で、その運転所を確保できるのかも問題です。過酷事故が発生している現場近くに、民間人の運転所を派遣することが出来るのか、その法的な根拠も明確にする必要があります。
入院入所の避難方法・受け入れ先の問題
 医療機関への入院患者や高齢者や障がい者などの施設入所者を、以下の避難させるかも課題の一つです。県の広域防災避難計画では、病院等医療機関、社会福祉施設等の管理者は、県及び避難元市町村と連携しつつ、あらかじめ定めた病院・社会福祉施設等に受入れを要請し、準備が整い次第避難するとのみ記載されているだけで、具体的な施設名などの記載はありません。
 PAZ県内だけでも、入院施設と入所施設が18箇所あります。大原神経科病院、日立おおみか病院、回春荘病院、久慈茅根病院、日立港病院、川崎病院、聖麗メモリアル病院、日立市大みかけやき荘、成華園サテライト、成華園、石名坂聖孝園、MAO、ご長寿くらぶ日立おおみか、まつの木の家、まごころの家、日立南ヘルシーセンター、グループホーム久慈浜、グループホームMAO。こうした施設の入所者をどのように移動させるか、日立市の広域避難計画に位置づける必要があります。

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避難経路(避難道路)の問題
 この計画は「平日の昼間、穏やかな気象条件を想定した設定」であり、実際の災害は地震や風水害がきっかけとなって起こることが想定されています。こうした「複合災害」には、今回の避難計画はまったくの『絵に描いた餅』にすぎないことを重く認識しなくてはなりません。
 1月1日に発生した能登半島地震では、志賀原発が立地する志賀町も大きな地震と津波に襲われました。志賀原発の30キロ圏には15万人が住んでいて、自治体の避難計画では国道など11の道路が主な避難ルートに設定されていました。
 しかし、能登半島から金沢市への自動車専用道路が全面通行止めになるなど、国道や県道20か所あまりで少なくとも5日以上は通れない状況が続きました。
 加えて指針で定める屋内退避に使う住宅の被害は、30キロ圏で1万棟を超えました。屋内退避自体ができない可能性があることが示されました。
 避難の判断材料となる放射性物質の監視体制も、地震で大きな被害を受けました。周辺に設置されたモニタリングポストは116台が設置されていましたが、最大で18台のデータが得られなりました。
 日立市の避難計画は、ほぼ全市民が常磐道・国道6号を利用して、福島県に避難することになります。地震で常磐道が通れなくなったり、津波や高潮で国道6月が不通になった場合、避難することは出来なくなります。

 今回決定された広域避難計画は、東海第2原発の過酷事故にあたっては「広域避難は出来ない」という厳しい現状を示した計画になってしまいました。