近年、日本各地で頻発する大地震や大雨災害により、多くの人々が住む場所を失う事態が続いています。このような状況下で、被災者の住居を迅速に確保することは国や自治体にとって大きな課題です。従来の応急仮設住宅としては、現地で施工する「建設型」と、既存の住宅を借り上げる「借り上げ型(みなし仮設)」が主に採用されてきました。しかし、これらには施工に時間がかかる、必要数を確保できないなどの問題が存在します。
これに対して、「移動型」の応急仮設住宅である「ムービングハウス」が新たな選択肢として注目されています。ムービングハウスは、災害発生時に迅速に設置できる移動式木造住宅です。2018年には災害救助法に基づく応急仮設住宅として認定され、以降、日本各地の被災地で活用されてきました。ムービングハウスの普及促進と大量供給に備えるために、官民連携の取り組み「防災・家バンク」がスタートし、その社会的備蓄も進められています。
今年元日に発生した能登半島地震では、5月31日現在、日本ムービングハウス協会が輪島市、珠洲市、七尾市、中能登町に合計226戸の仮設住宅を整備しました。バリアフリー仕様の住宅やコミュニケーションを促進する木製デッキなど、福祉視点の工夫も施されています。
さらに、能登空港に隣接する臨時宿泊施設や日本航空学園の臨時学生寮としても活用されています。
ムービングハウスの特長は、施工スピードが速く、ユニットを組み合わせることで広さを自由に変えられる点です。このため、迅速かつ柔軟に被災者の住居を確保することができます。ムービングハウスは、もともと一般の住宅として開発・使用されています。したがって一般の住宅と同等の耐震性、断熱性・気密性、防音性などの性能を備えています。窓やドアにはトリプルガラス製サッシを使用。またコンクリート基礎に固定すれば、建築基準法に基づく建築物として確認申請を受けて、恒久的な住宅として使用できます。約30m2のユニットを縦横上下に連結し積み木のように組み合わせることで、地域の実情や家族構成に応じて、柔軟に間取りや広さを構成することができます。
このムービングハウスを仮設住宅として使用することは、被災者のために応急的に仮設住宅を建設するのではなく、最初から高い住宅性能を備えた「一般住宅」を仮設住宅として提供するという、逆転の発想です。これによって、入居者の安全と健康を向上させることが期時できます。
ムービングハウスと同様、トレーラーハウスは、キッチン、バスルーム、ベッドルームなど、基本的な生活設備が全て揃っているため、被災者がすぐに生活を開始できる環境が整っています。設置にかかる時間が非常に短く、災害直後に迅速に被災者に住まいを提供することが可能です。今回の能登半島地震では、志賀町で仮設住宅として、珠洲市では臨時宿泊施設として合計40戸活用されました。