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 日立市市役所本庁舎は、令和5年9月8日に発生した台風第13号に伴う豪雨災害により、甚大な浸水被害を受けました。この被害は、市内を覆った線状降水帯による記録的な豪雨が原因で、庁舎周辺の河川が溢水し、市役所本庁舎が浸水しました。庁舎敷地内では、最大で約80cmの浸水が確認されました。地下1階の浸水はさらに深刻で、約133cmの水が溜まりました。免震層においては、232cmもの深さまで浸水が及び、免震装置のオイルダンパーにも泥が混入するなどの被害が生じました。この溢水により、地下1階に設置されていた受変電設備、非常用発電機、コジェネレーション発電機が浸水し、庁舎全体が停電に見舞われました。

 被害の原因は市役所西側を流れる河川の溢水です。数沢川と平沢川の合流部で、水流が衝突し、水位が急上昇しました。この結果、合流部から溢れ出した水が庁舎敷地内に流れ込みました。
 溢水した河川の水が、庁舎南側に位置する地下進入路から大量に流入し、地下階全体に広がりました。また、免震グレーチングを通じて浸入し、庁舎内部へ浸水しました。時間の経過とともに、泥が堆積し、さらに浸水が進行しました。地下進入路から流入した水は、地下駐車場を経由して免震層へと流れ込み、免震装置にまで達しました。免震層から逆流した水が、地下1階の電気室や機械室にも浸入し、さらなる被害を引き起こしました。
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 日立市は、本庁舎の防災機能強化に向けた「市庁舎安全対策計画」の素案を作成し、8月5日から8月15日までパブリックコメントを募集しています。
「日立市庁舎安全対策計画(素案)に対するご意見を募集します」:https://x.gd/0Av3f

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 安全対策の素案では、河川合流部の改修や、庁舎地下階の止水化対策などを進める計画です。計画期間は24年9月から27年3月までのおおむね3カ年で、概算事業費には約31億円に上ります。国が定める毎時153mmの国内最大級の豪雨による浸水リスクに加え、今後の気候変動を考慮して10%割り増した毎時168mmの降雨に対しても、庁舎機能を継続することを目標としています。

具体的な安全対策は
河川の溢水対策: 庁舎浸水の要因となった河川合流部の改修や二線堤、導流堤の整備が行われます。特に、溢水した河川合流部の形状をT字形からY字形に改修し、水位の上昇を抑える工事が進められます。
庁舎外周の止水壁等整備: 庁舎内への浸水を防ぐため、庁舎外周に止水壁を整備します。これには、地下進入路の上屋整備に併せた止水壁の見直しも含まれています。
電源設備の復旧位置の検討: 現在、庁舎地下1階に設置されている電源設備の復旧位置について、屋上移設、地上移設、現位置復旧の3案が検討されました。最終的に現位置復旧案が選ばれ、多重の浸水対策を行い、地震対策と浸水対策の両立を図ります。
庁舎地下階の止水化対策: 庁舎外周の止水壁等の整備に加え、万が一河川から溢水した水が地下進入路等から流入した場合に備えた浸水経路の止水化対策が進められます。
庁舎業務継続計画(浸水対策編)の策定: 浸水リスクを考慮した職員等の行動計画を定め、庁舎業務継続計画を策定します。

 河川の溢水対策では、庁舎浸水の要因となった河川合流部の改修や二線堤及び導流堤の整備などを行います。河川合流部については、溢水した河川合流部の形状をT字形からY字形に改修し、水流の衝突による水位の上昇を抑え、河床を掘り下げて川の水を円滑に流します。庁舎西側の浸水を低減するため、二線堤(河川の外側に築造する堤防)や導流堤(溢水した水の流れを誘導する堤防)の整備も行います。
 庁舎外周には、庁舎内への浸水を防ぐため、庁舎外周の水防ライン上に止水壁などを整備します。

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 地下にあり水没した電源設備の復旧位置については、屋上移設、地上移設、現在位置での復旧の3案を検討しました。屋上移設には、約6.8年の工事期間と概算62.2億円の予算が掛かると見積もられました。地上移設は、同じく約5.5年概算55.6億円。現位置復旧は、約2年概算9.3億円掛かると見積もられ、建物の制約条件、工事の難易度、工事費などを比較検討し、現位置復旧案で復旧を行うことにしました。
 このほか、庁舎周辺地域の対策では、庁舎が位置する数沢川と平沢川流域での更なる対策として、2つの河川の上流域に調節池を整備するなどの中長期的施策を、現在策定中の「市流域治水計画」に位置付けるとしています。
 概算事業費は、河川改修工事に約7億9000万円、庁舎の浸水対策工事に約22億4000万円、実施設計や工事監理に約7000万円の総額約31億円を試算しています。本年度の当初予算には、本庁舎の災害復旧事業として総額8630万円の2カ年継続費を設定し、免震装置の復旧工事などを進めるほか、地下進入路に整備する上屋の設計をまとめる計画です。本年度中には補正予算で事業費を確保し、庁舎安全対策計画の策定を待って庁舎の安全対策工事を行うほか、流域治水計画に基づく河川の改修工事へ準備を進めます。

 日立市役所新庁舎は2017年に完成。鉄骨一部鉄筋コンクリート造り地上7階地下1階。延べ床面積2万4911平方メートル。総事業費は約130億円で、国からの震災復興特別交付金や被災施設復旧関連事業債、合併特例事業債、庁舎積立金を充当しましした。国の交付税措置が受けられることから、日立市の実質的な負担は約43億円にとどまると当時説明されました。
 完成後わずか5年で、実質負担額の7割以上の対策費31億円余りが必要となった日立市役所本庁舎。当初計画の甘さを指摘する声が上がっています。