7月27日、超小集電技術の社会実装を目指した実験施設「空庵」のワークショップに参加しています。
 空庵はオフグリッドデザインとテクノロジーの実験施設です。自然豊かな茨城県常陸太田市に2021年に開設されました。集電セルの開発や、チャージコントローラシステムの開発など、オフグリッドにおける長時間の安定した生活電力を供給できるテクノロジー開発に寄与できる研究を行っています。
 主宰しているのは、トリパッドデザインの代表取締役中川聡先生。名古屋大学客員教授、元東京大学特任教授。自然界にある微弱な電力を取り出して、実用化しようという取り組みです。
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 現在空庵で行われているプロジェクトは、異なる金属電極を用いた超小集電技術により、土壌や水(水溶液)からの電気を得る試みです。
 超小集電技術の一環として、土壌や水から電力を得るために異なる金属を用いた電極を利用する方法が注目されています。この方法は、電気化学的な原理に基づき、異なる金属の間で生じる電位差を利用して電力を生成します。
 異なる金属電極を使用して電力を生成する原理は、いわゆる「ガルバニ電池(Galvanic cell)」や「ボルタ電池(Voltaic cell)」の原理に基づいています。異なる金属が電解質(ここでは土壌や水)に浸されると、これらの金属の間で電位差が生じます。この電位差は、電子の移動を引き起こし、外部回路を通じて電流を流すことができます。

土壌から電気を得る超小集電技術
 ガルバニ電池は、二つの異なる金属電極を電解質に浸して接続することで、電流を生成します。たとえば、銅(Cu)と亜鉛(Zn)を電極として用いると、亜鉛が酸化し、電子を放出します。この電子は外部回路を通って銅電極に移動し、そこで還元反応が起こります。この一連の反応により、電流が生成されます。
 土壌には水分、ミネラル、微生物、有機物が含まれており、これらが自然の電解質として機能します。異なる金属電極を土壌に挿入することで、土壌中の成分が電解質として作用し、電位差が生じます。例えば、亜鉛と銅を電極として用いることで、土壌中の水分やイオンが電極間の電位差を生み出し、微小な電流が生成されます。
 土壌を利用したこの集電技術は、主に環境モニタリングデバイスに電力を供給するために使用されています。特に、農業分野において土壌センサーの動力源として利用され、土壌の湿度、pH、温度などをモニタリングすることが可能になります。この技術は、バッテリー交換が困難なリモートエリアでの持続的なデータ収集に非常に有効です。

超小集電技術で水からの電力生成
 水、特に自然水(河川水や海水)には、多くのイオンが含まれており、優れた電解質として機能します。異なる金属電極を水中に浸すことで、土壌の場合と同様に電位差が生じ、電力を得ることが可能です。海水のような塩分濃度の高い水は特に効果的であり、電位差が大きくなるため、より多くの電力を生成できます。
 水を利用した超小集電技術は、海洋観測機器や水質モニタリング装置などに広く応用されています。例えば、海洋ブイに設置されたセンサーが、周囲の海水を利用して電力を生成し、リアルタイムでデータを送信することができます。この技術は、バッテリー交換が困難な深海や遠隔地でのデバイス運用において重要な役割を果たします。

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技術的課題と今後の展望
 異なる金属電極を用いた超小集電技術には、いくつかの技術的課題があります。まず、生成される電力が微小であるため、効率的なエネルギー変換と保存が求められます。また、長期間の使用に伴い、電極の腐食や劣化が発生する可能性があり、これが電力生成効率の低下につながることがあります。
 さらに、電極材料の選定が重要であり、環境に与える影響を最小限に抑えつつ、効率的な電力生成を実現するための研究が進められています。しかし、これらの課題を克服することで、異なる金属電極を用いた超小集電技術は、持続可能なエネルギー供給の一翼を担う可能性があります。
 今、茨城県常陸太田市の空庵では、地球の未来を開く偉大な実験が進められています!