
2024年1月1日に発災した能登半島地震において、石川県は避難生活を余儀なくされた住民のため、合計6,882戸の応急仮設住宅を整備しました。総事業費はおよそ1,187億円に上り、1戸あたりの平均建設費は約1,725万円。これは、2016年の熊本地震と比較して約1.8倍という非常に高額な水準です。
こうした中で建設された仮設住宅は、多様な形式が採用されました。それぞれの特徴と実績を、順にご紹介します。

まず最多となったのが「プレハブ仮設住宅」で、全体の約7割を占める4,636戸が建設されました。1戸あたりの平均建設費は約1,700万円を超え、平均工期は2か月。冬期の厳しい気象条件や人件費、資材費の高騰が、費用を押し上げたとみられます。プレハブ住宅は、迅速かつ大量に供給できるという利点があり、主に学校の校庭や公園などの公有地に設置されました。避難所生活からの早期脱却に大きく貢献した一方で、居住性には限界があり、使用後は撤去・解体されるのが原則です。そのため、高額な公共投資が資産として地域に残らず、廃棄時の環境負荷も課題となっています。
一方で、石川県が独自に推進したのが「木造仮設住宅」で、合計1,579戸が整備されました。これには、「まちづくり型」「ふるさと回帰型」「DLT型」という3つのタイプがあります。

「まちづくり型」は、市街地やその周辺のまとまった空地に、長屋型の木造住宅を建設するもので、将来的に市町営住宅への転用が前提とされています。平均建設費は約1,800万円、工期は約3か月半でした。

「ふるさと回帰型」は、地元を離れて生活していた被災者が、故郷での生活を再開できるよう、集落内の空地などに戸建て風の木造住宅を建設する形式です。こちらも転用可能な設計となっており、平均建設費は約1,950万円、工期はまちづくり型と同じく3か月半程度でした。

「DLT型」は、建築家・坂茂氏によって設計された木造2階建ての集合住宅です。木ダボを用いて接合するDLT(ダボ・ラミネーテッド・ティンバー)という構法が採用されており、耐久性の高さが特長です。平均建設費は2,000万円を超え、工期は4か月半と最も長期に及びましたが、恒久的な活用を見据えた設計が評価されています。
これらの木造仮設住宅は、地域の景観や居住性に配慮し、仮設住宅としての役割を終えた後も、市町村の公共住宅などとして活用されることを想定した、将来を見据えた施策です。

次にご紹介したいのが、今注目を集めている「ムービングハウス」です。石川県では511戸が供給されました。ムービングハウスは、工場で建てた高性能な木造ユニットをトレーラーで輸送し、現地に設置する形式です。大きな特徴は「移設が可能」という点で、仮設としての利用後も解体せず、他の地域へ移したり、公民館や簡易宿泊施設として再利用できる点が大きな魅力です。もともと一般住宅仕様で、高気密・高断熱構造を持ち、冷暖房効率に優れています。平均建設費は約1,400万円と比較的抑えられ、工期もおよそ50日と短期間。唯一の課題は、供給できる事業者が限られている点ですが、「壊さない仮設」として今後の可能性が広がっています。

また、「モバイルハウス」も126戸が建設されました。こちらは、工場であらかじめ製造されたユニット住宅を、現地で再組立して供給する形式で、木造の在来工法やCLT(直交集成板)工法が活用されています。ムービングハウスほどの移動性はないものの、プレハブ住宅に比べて居住性は高く、安定した生活環境を提供します。特筆すべきは、使用後に市町村の公営住宅として転用が可能である点で、設計段階から恒久利用を視野に入れて整備されているのです。平均建設費は約1,700万円、工期は約3か月とされています。

最後に、「トレーラーハウス」は30戸が導入されました。タイヤ付きのシャーシに住宅を載せた構造で、車両として自走可能な点が特長です。現地での工事がほぼ不要で、数日で居住開始できるスピード感は災害直後の対応に非常に有効です。建設費は平均で約1,200万円、工期も30日程度と、短期的なニーズには非常に有効な手段と言えます。今後は、全国規模で備蓄しておくことで、迅速な災害対応につながることが期待されています。
このように、能登半島地震における仮設住宅は、その形も役割も多様化しました。それぞれに長所と短所があり、一概に優劣をつけることはできません。しかし共通して問われているのは、「費用対効果」と「持続可能性」です。
短期間の使用を前提に高額な費用を投じ、最終的に解体・廃棄する仮設住宅の在り方は、もはや時代にそぐわないと言えるでしょう。今後は、経済性に優れ、短期間で建設でき、居住性も確保され、再利用や地域資産として活用できる仮設住宅こそ、防災・減災政策の中核となるべきです。
「壊す仮設」から「生かす仮設」へ――。
復興の知恵とは、単に元に戻すことではなく、次の災害にも備えられる持続的な仕組みを選ぶことではないでしょうか。能登の経験を教訓として、全国の災害対策に活かしていくべきと考えます。
※このブログで取り上げた仮設住宅一戸あたり平均建設費は、解体・撤去費用(原状復帰)費まで含んでいます。また、石川県には災害救助法の仕組み以外で整備された仮設の住宅も建設されており、このまとめには含まれていません。

「まちづくり型」は、市街地やその周辺のまとまった空地に、長屋型の木造住宅を建設するもので、将来的に市町営住宅への転用が前提とされています。平均建設費は約1,800万円、工期は約3か月半でした。

「ふるさと回帰型」は、地元を離れて生活していた被災者が、故郷での生活を再開できるよう、集落内の空地などに戸建て風の木造住宅を建設する形式です。こちらも転用可能な設計となっており、平均建設費は約1,950万円、工期はまちづくり型と同じく3か月半程度でした。

「DLT型」は、建築家・坂茂氏によって設計された木造2階建ての集合住宅です。木ダボを用いて接合するDLT(ダボ・ラミネーテッド・ティンバー)という構法が採用されており、耐久性の高さが特長です。平均建設費は2,000万円を超え、工期は4か月半と最も長期に及びましたが、恒久的な活用を見据えた設計が評価されています。
これらの木造仮設住宅は、地域の景観や居住性に配慮し、仮設住宅としての役割を終えた後も、市町村の公共住宅などとして活用されることを想定した、将来を見据えた施策です。

次にご紹介したいのが、今注目を集めている「ムービングハウス」です。石川県では511戸が供給されました。ムービングハウスは、工場で建てた高性能な木造ユニットをトレーラーで輸送し、現地に設置する形式です。大きな特徴は「移設が可能」という点で、仮設としての利用後も解体せず、他の地域へ移したり、公民館や簡易宿泊施設として再利用できる点が大きな魅力です。もともと一般住宅仕様で、高気密・高断熱構造を持ち、冷暖房効率に優れています。平均建設費は約1,400万円と比較的抑えられ、工期もおよそ50日と短期間。唯一の課題は、供給できる事業者が限られている点ですが、「壊さない仮設」として今後の可能性が広がっています。

また、「モバイルハウス」も126戸が建設されました。こちらは、工場であらかじめ製造されたユニット住宅を、現地で再組立して供給する形式で、木造の在来工法やCLT(直交集成板)工法が活用されています。ムービングハウスほどの移動性はないものの、プレハブ住宅に比べて居住性は高く、安定した生活環境を提供します。特筆すべきは、使用後に市町村の公営住宅として転用が可能である点で、設計段階から恒久利用を視野に入れて整備されているのです。平均建設費は約1,700万円、工期は約3か月とされています。

最後に、「トレーラーハウス」は30戸が導入されました。タイヤ付きのシャーシに住宅を載せた構造で、車両として自走可能な点が特長です。現地での工事がほぼ不要で、数日で居住開始できるスピード感は災害直後の対応に非常に有効です。建設費は平均で約1,200万円、工期も30日程度と、短期的なニーズには非常に有効な手段と言えます。今後は、全国規模で備蓄しておくことで、迅速な災害対応につながることが期待されています。
このように、能登半島地震における仮設住宅は、その形も役割も多様化しました。それぞれに長所と短所があり、一概に優劣をつけることはできません。しかし共通して問われているのは、「費用対効果」と「持続可能性」です。
短期間の使用を前提に高額な費用を投じ、最終的に解体・廃棄する仮設住宅の在り方は、もはや時代にそぐわないと言えるでしょう。今後は、経済性に優れ、短期間で建設でき、居住性も確保され、再利用や地域資産として活用できる仮設住宅こそ、防災・減災政策の中核となるべきです。
「壊す仮設」から「生かす仮設」へ――。
復興の知恵とは、単に元に戻すことではなく、次の災害にも備えられる持続的な仕組みを選ぶことではないでしょうか。能登の経験を教訓として、全国の災害対策に活かしていくべきと考えます。
※このブログで取り上げた仮設住宅一戸あたり平均建設費は、解体・撤去費用(原状復帰)費まで含んでいます。また、石川県には災害救助法の仕組み以外で整備された仮設の住宅も建設されており、このまとめには含まれていません。