2005年3月の開業を目指して、日立に新たなケーブルテレビ局「JWAY」が誕生しました。10月8日には、総務省からケーブルテレビ局の認可もおり、いよいよ年内にも具体的な伝送路工事なども始まります。
 このニュースは既に、全国のCATV関係者には、大きな驚きをもって伝わっているようです。
 ここでは、JWAY開局までの経緯と今後の動向について、取りまとめてみました。尚、記事内容はあくまでも井手よしひろの個人的見解であり、JAWY並びに日立市などの公式的な見解ではないことをお断りいたします。
全国注視のJWAY開局
 8月27日の月刊「ニューメディア」主催の特別セミナー「JWAYはどんなケーブル局を目指すのか?」には、70人のCATV関係者が全国から集まりました。
 以下、ニューメディア誌の記事の要約を紹介します。
「ここに骨を埋める」と杉本社長
 セミナー冒頭、JWAY杉本弘社長が挨拶した。「今回、ご縁があって、日立市でケーブル局を立ち上げることになりました。私自身には、今春イロイロなことが起こりました。茨城県、日立市さんなどのご支援をいただき、感謝いたしております。第1次フェーズは、日立市約8万世帯にケーブルを張るわけですが、海岸線に沿って広がっていますので、比較的張りやすい。これまで銀行員から身を転じて11年間、ケーブル事業に取り組んできました。失敗もしました。積み重ねたノウハウを生かして二分の一、三分の一の時間で、理想のケーブル局を構築していきます。私自身、こちらに居を構え真剣に取り組んでいます。私は、この地で骨を埋める覚悟です」杉本社長の話が終わると、激励の意味もこめて大きな拍手が贈られた。参加者の中には、杉本社長の姿を久しぶりに見る人も多く、「杉本健在なり!」を確認したかたちになった。杉本社長は営業の先頭に立つことになる。
 いちばん心配されていた資本金の目処も立ち、さらに、9月8日、総務省から新世代地域ケーブルテレビ施設整備事業に関する補助交付決定が出た。あとは、有テレ法の設置許可を得るだけだ。審議会は10月6日に開催されることが決定しているので、あと一歩だ。うまくいけば、日本ケーブル事業史上の奇跡事例となろう。
JWAYは地元の新情報産業
 技術担当の吉田常務が、JWAYの事業展開計画を説明した。「多チャンネル、インターネット、IP電話”3点セット”のサービスは当然として、地元放送局というコンセプトで地元の情報を流せるようなコミチャンを充実させて期待にこたえたいと思います。また、本社ビルの使い方ですが、1階は営業用の事務所。2階は技術の事務所。3階は番組制作スタジオ、HEを含むデジタル放送センター(iDCも兼ねる)で、JWAYの心臓部です。4階はコミュニティスペースとして、市民に開放します。市民はJWAYを単なるケーブル局としてではなく、時代の最先端をいく情報産業、IT産業としてみています」。
 吉田常務の話のあとは、山口正裕・シンクレイヤ社長、薮下憲一・ジャパンケーブルキャスト社長、瀧澤淳・ITXイー・グローバレッジプロデューサーの3氏から、インフラ構築や、サービス内容などについての具体的提案が出された。



ZTVと日立市の出会い
 JWAY設立の経過を語る前に、三重県のケーブルテレビ会社(株)ZTVに触れなくてはなりません。
 2001年、ブロードバンドという言葉がやっと市民権を得たこの年の春、県北地域の活性化をITを武器に進めようと「日立IT市民の会」(会長:野地均一さん)が設立されました。この会を母体にして、茨城県を情報先進県にしようと、光ファイバー網を県内全域に敷設し、どの地域でもブロードバンドネットワークが利用できるようしようと署名運動が行われました。この運動は、短期間に大きな賛同の輪となり、8000人以上の署名が寄せられました。こうした市民の声の結集として、茨城県は県内全市町村を結ぶ光ファイーバー網「いばらきブロードバンドネットワーク」(IBBN)を計画し、2002年春には、その整備業者を決めるプロポーザル方式の入札が行われました。
 このIBBNの入札には、NTTグループ、東京電力グループに加えて、ZTVという茨城ではあまり知られていないケーブルテレビの事業者が名乗りを上げたのです。ZTVは、平成2年10月に三重県津市をエリアとするCATV会社として設立され、平成6年に放送事業を開始しました。初年度から単年度黒字を計上するCATV業界における超優良企業の一社です。サービスエリアの拡大を繰り返し、三重県下では63行政区中23行政区に対してサービスを実施しており、和歌山県、滋賀県、奈良県でもサービスを展開しています。
<リンク>ZTVのサービスエリア
 その上、このZTVは革新的な技術をいち早く導入してきたケーブル局としても有名です。ケーブルテレビとインターネットを融合して、定額制のブロードバンド環境を日本で最初に提供したのは、このZTVであるとされています。(RBB・TODAYの記事より)また、ZTVはCATVで世界初のVoIP商用化に成功した企業としても有名です。さらに、基幹伝送路を全て光ファイバーで整備しているため、三重県では県を始め各種の行政機関が活用する情報通信基盤と利用されています。三重県に主力工場を置くシャープが、国際ネットワーク回線を構築するにあたり、国内の足回り回線としてZTVを選びました。ZTVのバックボーンネットワークを経由して、アジア・ネットコム、チャイナ・ネットコムへと流れる国際的なネットワークを活用しています。今や、ZTVは単なるCATV事業者のレベルを遙かに超えているといっても過言ではありません。
 こうした背景があってのIBBN事業への入札参加ではありましたが、残念ながら結果はNTTグループが入札を征し、ZTVと茨城県との関係は、この時点で切れることになりました。
<リンク>ZTVのホームページ(http://www.ztv.co.jp/)
 2002年秋、ZTVの副社長であった杉本弘さんと技術担当部長であった吉田要さんは、茨城県での事業の可能性を探るために、県内一円を調査しました。その時に強く印象に残った地域が県北の日立市でした。
 全国的にみてもケーブルテレビの空白地域が目立つ県が、東日本を中心にまだいくつか残っています。その上、県庁所在地でケーブルテレビ会社のない県は、茨城県と福島県の2県だけです。茨城県内で自主放送を行うケーブルテレビとしては、土浦市の土浦ケーブルテレビ(株)(J−COMブロードバンド茨城)、古河市のリバーシティ・ケーブルテレビ(株)、つくば市の(財)研究学園都市コミュニティケーブルサービス(ACCS)、ひたちなか市の日本通信放送(株)の4社がありますが、県北地域には全くケーブルテレビは生まれて来ませんでした。この地に布石を置けば、CATV空白地域の福島県への足場にもなる、そう考えるのは経営者としての当然の結論であると思われます。
 一方、地元の日立市や住民からも新たな情報基盤整備を求める声が高まってきました。重厚長大の工業都市として反映してきた日立市にとって、新たな活性化の起爆剤をITやその基盤整備に求めようとする考えが、多くの市民から寄せられていました。
 この年の12月には県議会議員の選挙が行われました。私は3期目の選挙に挑戦し、多くの有権者の皆さまと接し、対話する機会を得ました。その中で、「閉塞したこの状況を打破するために、まずブロードバンドの環境を整備し、新たな地域コミュニケーションの仕組みを作ることが大切である」と言うことを痛感しました。そのような状況の中で、県の担当者から「三重県にZTVというおもしろい企業がある」という話しを聞き、選挙戦が終わった12月25日三重県津市に赴き、ZTVの杉本副社長と初めて面会しました。この時、新たな天地を求めて進出を目指すZTVの意向と、地域活性化のため何としても情報基盤整備を進めなくてはならないという地域の思いが一体となる可能性を強く感じました。
 その後、様々なチャンネルを使って日立市とZTVは、日立市の情報基盤整備について、具体的な検討を行ってきました。国の補助制度である「新生代ケーブルテレビ施設整備事業」を活用して、ケーブルテレビ事業の展開を図るというスキムも決まり、茨城県の補助も受けるという万全な体制も整いました。


JWAY設立と今後の動向
 2004年春、ある異変が起こりました。日立市でケーブルテレビ事業を開始しようと計画を進めてきた中心人物であり、また実質的にZTVの陣頭指揮を取って来た杉本氏が、突如ZTVの副社長を退任することになったのです。業界内には、「ZTVの異変」として様々な情報が飛び交いました。
 更にZTV側は、日立市への進出計画を撤回しました。県や国の補助まで正式に申請をした日立市は、まさに、梯子を外されたことになりました。日立市としては、せっかくここまで進んできたケーブルテレビ事業の計画を水泡に帰すわけにはいきません。地元の有力企業や近隣県のケーブルテレビ事業者に、日立市への進出を打診するなど、様々な打開策を模索しました。

 こうした中、ZTVを退任した杉本氏が、自ら会社を興し、社長に就任して日立市でのケーブルテレビ事業を推進することを表明しました。愛知県名古屋市に本社を置くシンクレイヤ(株)の山口正裕社長も株主として出資、強力に後押しする体制を整えました。地元の日立電線などの有名企業も出資し、年内には他の地元企業も出資社に加わる計画です。役員として、杉本氏とともにZTVを築き上げてきた吉田氏も、常務としてJWAYの経営の最前線で活躍することになりました。
 こうして新会社「JWAY」が2004年5月31日に設立されました。
 JWAYは、7月21日に総務省関東総合通信局に事業申請を行い、10月6日に行われた総務省の電気通信審議会での審査を経て、10月8日に事業許可が下りました。会社設立以来4ヶ月余りという前代未聞のスピードでの認可でした。また、総務省は9月8日には、JWAYが日立市で計画しているケーブルテレビ事業に対して、新世代地域ケーブルテレビ施設整備事業の補助交付を決定しました。補助額は、総事業費4億8000万円のうち、国が1億2000万円で、県と市が6000万円ずつです。
 今後の計画としては、第1期工事として、日立電鉄の本社ビルであった日立駅前のJWAY本社を、センター施設として整備します。さらに、日立市駅周辺の1万世帯を対象に光ケーブルを張り巡らす計画です。2005年3月から本格的にサービスを開始します。
 引き続き第2期として17年度には日立市全域と十王町の約7万世帯をカバーするため、25億円以上をかけてCATV網を整備する方針です。
 多チャンネルサービスのほか、コミュニティチャンネルなど約30チャンネルを設けて、日立市内の情報を家庭や企業等に放送。あわせて30Mbpsの高速インターネットやIP電話等のサービスも提供を予定しています。
 JWAYの杉本社長は、井手県議らとの意見交換を通して、「JWAYは自主番組の制作にこだわり、市民の放送局を目指す。NPOやボランティアとの連係も大歓迎です。地域の特売情報やカラオケ大会、小中学校の運動家や文化祭など様々なご近所情報を提供します。また、市議会の中継や市役所からのお知らせを放送する専用チャンネルも用意します。日立市には全国でも珍しい『天気相談所』がありますので、そこからの天気予報番組も可能です。また、災害時には防災情報の発信に威力を発揮すると思われます。風水害や火事の情報などを正確に、いち早く、ビジュアルに伝達することが出来ます」と、抱負を語りました。
 JWAYの課題は、いかに開業時に契約家庭数を延ばせるかということになります。