茨城県と常陸太田市は岡山電気軌道に対して、日立電鉄線を存続させた場合の収支予測と公的負担の必要額を試算を依頼していました。井手よしひろ県議に、10月21日午後、県企画部よりその試算が示されましたので、取り急ぎ掲載します。
 試算によると、自治体が線路や施設を保有し、新会社に運行を委託する「上下分離方式」の場合は、10年間で20億8000万円、新会社が施設を所有する「上下一体」では35億5000万円の公的補助が必要としています。この補助によっても、営業収支の黒字転換は見込めず、赤字幅によっては負担額がさらに膨らむ可能性もあります。
 岡山電軌の試算は、日立電鉄の経営指標や県の存続試算データのほか、岡山電軌が全線の運行を引き継ぎ、乗務員を新たに採用して人件費水準は引き下げる前提で計算しています。
 「上下分離方式」では、初年度の営業収入が3億円に対し、運行費用や車両と線路の管理費、借地の賃料などを合わせ3億2000万円が必要で、差し引き2000万円の営業赤字が出る。2年目以降も赤字幅は最大8000万円まで膨らみ、十年間の累積赤字は4億6000万円になります。
 これに加えて、自治体側で一部車両を中古で買い替え、安全対策で橋りょう改修工事をする必要があり、設備投資と基盤整備維持費で16億2000万円かかるとしました。
 一方、「上下一体方式」では、鉄道資産20億円が自治体から新会社へ無償譲渡されることが前提となっています。車両更新や変電所整備費4億4000万円も自治体側が、日立電鉄から自治体が有償で引き継ぎます。無償譲渡された資産は新会社の収入とみなされ、法人税が初年度に8億2000万円課税されるため、初年度は10億4000万円の赤字が発生します。その後も、固定資産税や減価償却費が必要で、営業赤字は毎年2億円前後に達し、10年間の公的負担額は35億5000万円に膨らむ試算となりました。
 更に、「上下分離」と「上下一体」いずれの収支予測も、1〜2年目の営業収入が2003年度と同水準で維持できることが前提となっています。しかし、実際の乗降客数と営業収入は、今年度も前年比8%前後減少し続けているため、赤字幅はこの試算よりさらに膨らみ、それに対する自治体の補助額は拡大する可能性があります。
 8月に公表された「日立電鉄線存続に向けた市民報告書」によると、上下分離方式で24億円の公的補助が必要とされていました。
1.自治体が施設等資産を所有し、新会社に鉄道の運行を委託する場合(上下分離方式)
○鉄道運行に関する収支予測
費目17年度18年度19年度20年度21年度22年度23年度24年度25年度26年度10年間
合計
備考
営業収入3.03.02.82.82.52.52.52.52.52.526.6運輸収入+運輸雑収(広告料等)
運営コスト営業費用3.23.23.33.33.32.92.93.03.03.031.1 
運行費用1.91.91.92.02.02.02.02.02.02.019.5列車の運行に係る人件費・経費
車両保存費0.30.30.30.30.30.30.30.30.30.33.2車両の点検整備に係る人件費・経費
線路・電路保存費0.70.70.80.80.80.40.40.40.40.45.8線路・電路整備に係る人件費
賃借料0.30.30.30.30.30.30.30.30.30.32.6地代
営業損益▲ 0.2▲ 0.2▲ 0.5▲ 0.6▲ 0.8▲ 0.4▲ 0.4▲ 0.5▲ 0.5▲ 0.5▲ 4.6単位は億円

○公的負担額試算
 17年度18年度19年度20年度21年度22年度23年度24年度25年度26年度10年間
合計
備考
委託料0.20.20.50.60.80.40.40.50.50.54.6 
設備投資・基盤整備維持費2.21.02.51.11.91.22.01.22.01.216.2 
車両購入0.8   0.8 0.8 0.8 3.2中古車両8両購入
変電所整備  1.2       1.2 
基盤整備・維持費1.41.01.31.11.11.21.21.21.21.211.8安全の確保に係る橋梁改修
列車集中制御装置改良
合 計2.41.23.11.72.81.62.41.62.41.620.8 

※試算の条件
・鉄道施設については自治体が日立電鉄(株)から譲渡を受け,自治体から新会社へ無償貸与する。(新会社に利益が出た場合は使用料を支払う。)
・線路・電路の修繕費及び車両更新等設備投資は自治体が行う。
・鉄道施設等の資産が自治体所有のため,運行会社に減価償却費は発生しない。
※自治体負担額
・10年間の自治体負担額合計は約20.8億円。
・ただし,営業損益の赤字額が増加した場合は,さらに自治体負担額が増加する。
<その他>
・設備等の資産が自治体所有のため,事業を廃止した場合の設備等撤去費用が自治体負担となる。


2.新会社が施設等資産を所有し、鉄道を運行する場合(上下一体方式)
○鉄道運行に関する収支予測
費目17年度18年度19年度20年度21年度22年度23年度24年度25年度26年度10年間
合計
備考
営業収入3.03.02.82.82.52.52.52.52.52.526.6運輸収入+運輸雑収(広告料等)
運営コスト営業費用13.44.85.55.05.34.54.94.65.04.757.7 
運行費用1.91.91.92.02.02.02.02.02.02.019.5列車の運行に係る人件費・経費
車両保存費0.30.30.30.30.30.30.30.30.30.33.2車両の点検整備に係る人件費・経費
線路・電路保存費1.51.41.61.51.51.11.11.11.11.112.9線路・電路整備に係る人件費・経費
諸税・減価償却費9.40.91.40.91.30.91.31.01.41.019.5譲渡税(法人税等)+
固定資産税+
減価償却費
賃借料0.30.30.30.30.30.30.30.30.30.32.6地代
営業損益▲ 10.4▲ 1.8▲ 2.7▲ 2.2▲ 2.8▲ 2.0▲ 2.4▲ 2.1▲ 2.5▲ 2.2▲ 31.1 

○公的負担額試算
 17年度18年度19年度20年度21年度22年度23年度24年度25年度26年度10年間
合計
備考
営業損失への補助10.41.82.72.22.82.02.42.12.52.231.1 
設備投資0.8 1.2 0.8 0.8 0.8 4.4 
車両購入0.8   0.8 0.8 0.8 3.2中古車両8両購入
変電所整備  1.2       1.2 
合 計11.21.83.92.23.62.03.22.13.32.235.5 

※試算の条件
・鉄道施設については自治体が日立電鉄(株)から譲渡を受け,自治体から新会社へ無償譲渡する。
・車両の更新及び変電所の整備については,自治体が整備し,新会社へ無償譲渡する。
・車両,設備等について更新後は新会社で行う。
・譲渡税20億円×0.41=8億2千万円,車両,変電所4億4千万円×0.41=1億8千万円を計上。
※自治体負担額
・10年間の自治体負担額合計は約35.5億円。
・ただし,営業損益の赤字額が増加した場合は,さらに自治体負担額が増加する。


3.その他の投資等
今回の収支見込みにおいては計上していないが現実には以下のような初期投資が必要と考えられる。
経営のための人材確保,駅舎看板や時刻表の切り替え,車両の塗り替え,車両シートの張り替え,新規事業主体のPR,従業員制服の切り替え